先日、一切経山、安達太良山、磐梯山という福島県にある3つの山で空見ハイキングを実施しました。今年は、紅葉が美しい所が多いようですが、この南東北の3座もちょうど見頃を迎えていて、素晴らしい景色を堪能できました。
出発前、一般の天気予報やヤマテンの自動計算によるアルゴリズム予報では、期間中はずっと雨の予報が出ていました。しかし私は、実際には12~13日にかけて一時的な雨はあるものの強く降ることはなく、14日の午前中は磐梯山でまずまずのお天気になると判断しました。そのため、当初の行程を入れ替え、13日に安達太良山、14日に磐梯山を登ることにしました。直前に天気を理由にキャンセルされた方もいましたが、実際には紅葉と雲の動きを存分に楽しむことができました。雲が多い日ほど、空の読み方を学ぶには最適なのです。
山の天気を読む ― 風と地形の関係
では、なぜ13日と14日の日程を入れ替えたのか?
それを判断するために重要なのは、風向きと山と海の位置関係です。
山の天気は地形の影響を強く受けます。海側から風が吹くと、湿った空気が山の斜面で上昇し、冷やされて雲が発生します(図1)。このとき、山の天気は予報より悪化しやすくなります。
図1 海から風が吹くことによって山で雲ができる仕組み

一方で、高い山並みのある方向から風が吹くと、その山々が湿った空気を遮るため、天気の崩れは小さくなり、予報より良い天気になることがあります。
山の天気を読むポイント
- 風向きを知る
- 山と海との位置関係を確認する
天気図で見る風向きの違い
13日午前9時の予想天気図(12日発表)では、北東の風が吹くと予想されていました(図2)。風向は、等圧線の向きで知ることができます。低気圧や台風の周辺では反時計回りに、高気圧の周辺では時計回りに、いずれも等圧線に沿って風が吹きます(実際には摩擦の影響で、やや気圧が低い方に吹く)。
図2 13日9時の予想天気図(12日発表)

14日午前9時の予想天気図では、東〜東北東の風に変わる見込みでした(図3)。
図3 14日9時の予想天気図(12日発表)

図4 東北南部の地形(電子国土より)

次に、山と海との位置関係についてみていきます。これを調べるには、日本海から太平洋まで入る広範囲の地図を見ていきます。特に標高に応じて色分けされている地図が見やすいのでおすすめです(図4は単一色ですが、電子国土では自分で標高の区分を設定することができます)。地図を見ると、13日に予想される北東風のときは、一切経山~安達太良山で太平洋からの湿った空気が入りやすく見えます。14日に予想される東寄りの風でも同じように一切経山~安達太良山で湿った空気が入りやすく見えます。いずれの日も東側に安達太良山~東吾妻という標高の高い山が連なっている磐梯山では湿った空気が入りにくいように思えます。
850hPa相当温位図で見る“見えない前線”
しかし実際には、13日は磐梯山でも天気が崩れました。
これは地上天気図には表れない弱い前線が北から南へ南下していたためです。
上空約1,500mの「850hPa相当温位図」を見ると、線が密集しているところが前線の位置を示しており、その南側には湿った空気が存在します(図5)。前線付近では上昇気流が発生するため、海から湿気が入らなくても天気が崩れやすくなります。
図5 13日9時の850hPa相当温位図(12日発表)

一方、14日になると前線が消滅し、風は東寄りに変化。湿った空気の影響を受けやすい安達太良山では天気が悪化しやすく、反対に磐梯山では展望が期待できると判断できました。
このため、13日に安達太良山、14日に磐梯山へ登る計画へと変更したのです。
写真1 磐梯山からの桧原湖と紅葉

紅葉と雲を楽しむ山旅
結果的に、行程を入れ替えたことで紅葉の磐梯山から桧原湖を一望できる素晴らしい風景に出会えました(写真1)。天気図や風の流れを読む力があれば、一般の予報では分からない「山の天気の裏側」を理解できるようになります。次回は、西風が吹いた12日と、東風だった14日の天気の違いを、実際の写真を交えて解説します。お楽しみに。
文責、写真:猪熊隆之

