前回に続き、福島県の一切経山・安達太良山・磐梯山の3つの山で行った「空見ハイキング」での観察を紹介します。今回は、西風が吹いた日(12日)と東風が吹いた日(14日)で、どのように天気が違ったのかを解説します。
■ 前回の復習:山の天気は「風の向き」で決まる
山の天気は、海から吹く風によって崩れやすくなります。湿った空気が山にぶつかって上昇すると雲が発生し、雨や霧の原因になるからです。
図1 東北南部付近の地形(電子国土より)

■ 地形から見る風と天気の関係
図1(東北南部の地形)を見ると、磐梯山・一切経山・安達太良山はいずれも内陸にあります。しかし、西側には会津盆地と阿賀野川の谷があり、その先には新潟平野が広がっています。このため、日本海からの湿った空気は谷を通って山に入り込むのです。
- 磐梯山:会津盆地に面しているため、湿った空気が直接ぶつかりやすく、雲ができやすい。
- 安達太良山・東吾妻山:磐梯山に一部遮られますが、湿った空気が山の北側・南側を回り込みながら到達します。
- 福島盆地側(東側):西風が山を越えると乾いた下降風(フェーン)が吹き、雲が消えて晴れやすくなります。
■ 西風のとき(12日)の様子
写真1と写真2を見ると、浄土平から西の空には雲が広がり、東の空は青空が広がっていることがわかります。
- 一切経山や東吾妻山の稜線では雲がかかりやすく、視界は悪くなります。
- その東側の吾妻小富士では、風下の乾燥した空気により、晴天となりました。
このように、西風のときは山の西側が曇りやすく、東側は晴れやすいという特徴があります。
図2 西風が吹くときの天気

写真1 浄土平からの西の空

写真2 浄土平からの東の空

写真3 吾妻小富士

■ 東風のとき(14日)の様子
一方で、14日は東風が吹きました。すると天気の分布がまったく逆になります。
- 太平洋側からの湿った空気が入りやすい安達太良山や中通り(福島~郡山付近)では、霧や雲に包まれました。
- 磐梯山では、前線による雨が降り出す前までは展望がよく、高曇り程度の穏やかな天気でした。
図3 東風が吹くときの天気

写真4 磐梯山では展望が良くなる一方で、東吾妻~安達太良山の稜線(奥の山)では雲がかかる

写真5 中通りと会津地方とが天気の境界に

上の写真では、猪苗代湖の奥、中通り方面にできた雲が山を越えて手前側の猪苗代湖に入ると消えている様子が分かります。まさに、会津地方と中通りが天気の境界になっているのです。
この観察から、風向きが山だけでなく、平地の天気にも大きな影響を与えることがわかります。たとえば冬には北西の季節風が吹くため、会津地方では雪雲が発生しやすく、中通りでは晴れることが多くなります。天気を予想するときは、雲の形や空の色だけでなく、「風向き」にも注目することが大切です。そうすることで、より深く天気の仕組みを理解できるでしょう。
文、写真:猪熊隆之

