空の百名山連載北海道

第45回 波打つ空気 独特な空を生む ~利尻山(北海道)~

山に登ることは空に近づくこと。

今回ご紹介するのは、北海道の利尻山(りしりさん、標高1,721m)。利尻山との出会いは子供の頃、父が持っていた写真集を見たこと。そこで見た厳冬期の利尻山は、鉱物の結晶を積み重ねたような、あるいは精巧なガラス細工のような鋭い峰の連なりで、「こんなに美しく、気高い山があるんだ。」と子供心に感動したのを今も覚えています。そんな利尻山と初めて出会ったのが、撮影の仕事で利尻島を訪れた2022年12月下旬。わずかな晴れ間を期待して訪れたオタトマリ沼からでした。子供の頃から夢見ていた利尻山は想像を超える美しさで眼前に聳え、年がいもなく胸が高鳴りました。

写真1 オタトマリ沼からの利尻山

それから2年半、ようやく利尻山に登るチャンスがやってきました。当日は、麓の宿でもゴーゴーと強風による音が鳴る大荒れの日。それでも上空の雲は次第に取れていき、風も山頂に到着する頃には少し落ち着いてくると予想して出発。予想通り、雲は次第に取れていったが、強風は吹き荒れていて、開けた場所では時折、突風にあおられてよろめいたり、立ち止まって風に耐える姿勢を取らなければならないほど。その風が独立峰にぶつかってできる吊るし雲が風下側に見られます。吊るし雲は風や気流によってとどまることなく、姿形を変えていき、見ているだけでも面白いです。

 

写真2 利尻山で見られた吊るし雲

吊るし雲は、強い風が山を越えるときに波を作り、山の風下側に波が伝わっていくときの上昇気流でできる雲です。独特な形をしているのは、風が山を越えたときにできる波だけでなく、波の下側に複雑な気流が生まれるからです。この雲は地震雲と間違えられることもありますが、地震とは関係ありません。

 

図1 吊るし雲ができる仕組み

さて、この日はもうひとつ、興味深い雲が見られました。アスペリタスと呼ばれる雲です。ラテン語で“荒々しい”という意味の通り、雲の底が波打って不気味な感じの雲です。近くで雨が降っているときや、気流が激しく乱れているときに見られます。

 

写真3 利尻山で見られたアスペリタス

吊るし雲もアスペリタスも複雑な気流の中で生み出される雲です。海の波にも色々な波があり、ときに三角波など特徴的な波が生まれるように、空気も波打つことがあります。特に強い風が山にぶつかると、複雑な波が生まれるのです。それを教えてくれているのが雲なんですね。

〇おすすめコース

利尻山には、沓形(くつがた)コースと鴛泊(おしどまり)コースという2つの登山ルートがあります。このうち、沓形ルートは崩壊が進んでいて現在、三眺山~鴛泊コースとの登山道合流点まで通行止めになっています(2025年7月現在)。通行が再開になっても険しい箇所があり、注意が必要ですので、一般の登山者は鴛泊コースがおすすめです。また、吊るし雲やアスペリタスは利尻山の東側にできることが多いので、山の西側の沓形コースからは見られず、その意味でも鴛泊コースが良いでしょう。

 

文、写真:猪熊隆之

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