塔ノ岳(とうのだけ、1491メートル)は、表尾根から鍋割山の稜線へと延びる尾根と、蛭ヶ岳方面へ続く主脈が交わる場所にあり、丹沢山塊の要とも言える場所です。塔ノ岳という名前は、山頂の北側にあった尊仏岩を山麓の人々が「お塔」と呼び、雨乞いの神としてあがめていたことによります。
この山を選定した理由のひとつは、どのコースから登っても標高を上げていくと展望の良い場所が多く、空を見るのに適していること。二つ目は、夜景の素晴らしさ。夜になると、東京・横浜から湘南、そして眼下の神奈川県秦野市街地まで宝石のような夜景が広がります。特に冬は空気も澄んで、街の灯りの一つ一つが輝きを増します。これを見たいがために、私は尊仏山荘に泊まります。
塔ノ岳は、相模湾や駿河湾が近くにあり、これらの海から湿った空気が入ると、すぐに霧に包まれてしまうという特徴があります。これは、塔ノ岳だけでなく、丹沢山塊全体に言えることですが、山岳気象予報士泣かせの山で、私も予報を発表するときにはかなり神経を使います。
さて、山に登りながら天気を学ぶツアーで訪れた4月のある日。前日に確認した秦野市(丹沢山麓)の天気は一日を通して「晴れ」。私が経営する気象予報会社「ヤマテン」の予想では昼頃から雲がかかる予想でした。実際には、朝のうちは晴れていたものの、予想より早い午前8時ごろから怪しい雲が上空に広がってきました。
当日の天気図を見ると、高気圧が丹沢のすぐ南東にあって、広く関東地方を覆っています。これを見れば、秦野市の天気予報が「晴れ」になるのも仕方がないかなと思います。
しかしながら、丹沢の天気は一筋縄ではいきません。雲が広がったのは、天気図には現れない上空2千メートル付近の前線が通過したこと、前線に向かって相模湾からの湿った空気が入ったことが要因でした。これを予想することは気象予報士でも難しいでしょう。
そこで大切なのは風向き。丹沢では相模湾がある南、太平洋がある北東から南東、駿河湾がある南西から風が吹くと天気が崩れる傾向にあります。逆に、北風と北西から西風のときは天気が良くなります。山麓では地形の影響で、上空の風を読むことが難しいので、雲の流れを見ていきましょう。コンパスで雲が流れてくる方角を確認してください。その方角が先ほど述べたような風向きの場合には天気が崩れる可能性が高くなります。また、天気予報を利用するときに、風向きをチェックするようにしましょう。
風向きから天気を読むということの重要性を実感させてくれる山、それが丹沢・塔ノ岳です。