今回は、2024年9月29日に蔵王連峰で見られた雲についての解説です。この日は、朝から山形盆地では良く晴れていました(写真1)。
写真1 29日朝の山形市内
一方、刈田岳に到着すると、一面のガス(霧)に覆われていました(写真2)。
写真2 霧の刈田岳
ガス(霧)にも悪いガスと良いガスがあります。悪いガスとは、オナラのことではなく(失礼!)、上を見上げたときに空が暗いとき、明るい感じがしないときのガスです。雲が高い所まで達しているので太陽の光が届かず、暗い感じになります。このようなときは、いつ雨が降りだしてもおかしくありません。一方、良いガスは写真3のように、太陽が透けてみえたり、明るい感じのするガスです。このようなときは、雲の上端は私たちのいる所のすぐ上にあり、湿った空気の入り込みが弱まると、ガスが取れることもあります。
写真3 良いガス
さて、蔵王といえばお釜。やっぱりエメラルドグリーンのお釜は見たいものですよね。ところが、刈田岳から熊野岳に向かって歩き出し、お釜の展望台に着くもガスガスでお釜は見えず・・・。良いガスなのでチャンスがあるかなと思い、時々お釜が見える所で待機しながら、お釜寄りの登山道を進んでいきます。すると、奇跡のように霧が晴れてお釜が現れました!
写真4 ガスが取れて突然現れたお釜
やはり、良いガスのときは諦めない方がいいですね。
さて、この日は宮城県側から東寄りの風が吹いており、太平洋からの風向きになっていました。そのため、太平洋からの湿った空気が蔵王連峰で上昇させられて宮城県側で雲を発生させ、その勢いが強いときには稜線を覆うという天気でした。このようなときは、宮城県側から登るとガスガスで景色が見られないので、山形県側からのアプローチがおすすめです。逆に、西風のときは山形県側で霧に覆われることが多く、宮城県側からのアプローチが良くなります。風向きは天気図から予想できるので、この日の予想天気図を見ていきましょう。
図1 28日に発表された29日午前9時の予想天気図(気象庁ホームページより)
天気図を見ると、北海道の西に高気圧があり、福島県沖から九州の南海上にかけて前線が延びて前線上に低気圧があります。つまり、北の方が気圧が高く、南が低い北高型と呼ばれる気圧配置です。このようなときは、北の高気圧からの北東や東風が吹くことが多くなります(風は気圧が高い方を右手に見て等圧線に平行に吹くので)。したがって、太平洋からの風向となり、風上側の宮城県側で海からの湿った空気が上昇して雲が発生するのです。
一方、山を越えると下降気流となり、空気が温められて雲が蒸発していくことや、蔵王連峰で太平洋からの湿った空気が食い止められるので、山形県側では空気が乾いた状態です。そのため、山形県側では中腹以下を中心に、お天気が良くなります。
図2 山を挟んで天気が異なる理由
写真5 宮城県側で霧、山形県側では晴れと蔵王連峰を挟んで天気が異なる様子
普通は山を越えた雲は風下側に流れ下り、徐々に蒸発していきますが(時に滝雲になります)、写真5のように雲が垂直に立っているのはなぜでしょうか。これは東風があまり強くないため、山形県側には風が吹き下ろさず、山形県側では日中の昇温による谷風で風が吹きあがってきているからです。山形県側からの谷風が宮城県側からの雲の侵入を食い止めているので、このように雲が垂直に立ったような状態になります。
講師の猪熊は、アルパインツアーや毎日新聞旅行で空見ハイキングツアーを企画、同行させていただいております。次回は2025年1月、2月に関東近郊と南九州で予定しています。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。
文責:猪熊隆之