空の百名山連載

第35回(特別編) 初登頂は日本人 荒れる8千メートル峰~マナスル(ネパール)~

山に登ることは空に近づくこと。

 

今回から2回にわたって海外の空を見る番外編をお送りします。

マナスル(8,163m)は、ネパールにある世界第8位の高峰です。8,000m峰は世界に14座ありますが、その中で日本人が初登した唯一の山です。

1956年5月に日本隊によって登頂されましたが、そのときの隊長はスイスのアイガー東山稜(ひがしさんりょう)を初登攀(はつとうはん)したことで有名な、槇 有恒(ゆうこう)です。そのニュースは戦後間もない日本の人たちに大きな勇気を与え、一大登山ブームが起こりました。

 

写真1 ベースキャンプ(4,800m)から望むマナスルと筆者。見えているのは「ピナクル」というピーク

その初登攀から67年。私は日本の公募登山隊に参加して、気象予報をしながら登頂を目指しました。

これまでにもマナスルの天気予報は国内外の登山隊に何度も発表していて、地形も頭の中に入っていましたが、頭で分かることと、体で覚えることとは異なります。今回の登山で、頭で分かっていたことを体で理解することができ、また、これまで漠然としたイメージだったものが具体的な映像として自分の脳に刻みことができました。

 

マナスルは、東西3,000kmにわたって連なるヒマラヤ山脈の東部、ネパール・ヒマラヤに位置します。

ネパールは、日本の奄美大島と同じ位の緯度にあるので、平地では亜熱帯の気候になりますが、標高に応じて気温が変わり、標高1,300m付近のカトマンズでは温帯気候、標高4,000m付近からは寒帯気候やツンドラ気候になり、標高6,000m付近から上は万年雪の世界です。また、雨が多く降る雨季と、ほとんど雨が降らない乾季とがあります。雨季は6~9月、乾季は10月から翌年の5月にかけてです。

乾季になると、シベリア高気圧が強まって大陸からの冷たくて乾いた空気が入ってくるので、晴れの日が続きます。一方、雨季は、インド洋からの暖かく湿った空気が入るため、雨の日が多くなります(図1)。

 

図1 ネパールで雨季と乾季がある仕組み

特に、インド洋からの湿った空気がヒマラヤ山脈にぶつかる山脈の南斜面では降水量が多くなります。マナスルは、ネパール・ヒマラヤの中でも天気が悪い山として知られていますが、これはネパール南部のタライ平野から直接そそり立っていることと、東西の2つの谷を通ってインド洋からの湿った空気が入りやすいからです(図2)。

図2 マナスルに湿った空気が入る理由

朝日新聞社 本件記事より

 

このような気候のため、登山やトレッキングに適したシーズンは、乾季と真冬を除く3~5月と10~11月になります。

ただし、標高の高い山では天気以上に風の影響を強く受けます。風は冬に風が強まり、夏には弱まる傾向にありますが、特に秋から冬にかけてジェット気流が強まって暴風の日が増えるので、8,000m峰など標高の高い山では5月と9月に登頂を目指す人が圧倒的に多くなります。

次号は、いよいよマナスルでの新たな発見や、そこで見られた雲についての解説です。お楽しみに!

キャンプ1から見た朝焼けのマナスル

 

マナスルを目指して氷河の上を行く登山者。年々氷河が後退しているので、ルートも毎年変わる

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