山に登ることは空に近づくこと。
最近、空を見上げることがありますか? 都会のビルの中では、見える空も小さいけれど、よく晴れた日に空を見上げてみると、心がスカッとした気分になったりするものです。都会でもそうですから、山の上で見る空は格別です。昼間は鮮やかな青色で、「空ってこんなに青かったんだ」と驚かされます。朝焼けや夕焼けの美しさや、凛とした澄んだ空気は、山ならではと言えるでしょう。浮かんでいる雲は手が届きそうな近さに感じられます。ときには雲を眼下に見下ろすことができ、そんな光景を見ていると、心は高揚感に包まれ、もやもやした気分がどこかに飛んでいってしまいます。
山で空を眺めることは、とても気持ちのいいものです。登山の楽しみ方は色々ありますが、そのひとつに「空を見ること」を加えていただきたい。そんな思いから、空を見るのに最適だと思われる山を「空の百名山」として選ぶことにしました。特徴的な雲が見られやすい山、夕焼け雲や朝焼けが美しい山、ブロッケン現象など光学現象が見られやすい山、地元の人に愛されている山を選んでいきたいと思います。
山は空や雲を見るのに最高のフィールドです。平地からは下から見上げる形になるので、雲の底の部分しか見えません。遠くの雲は立体的に見えますが、離れているので動きが見えづらいですし、山の反対側にある雲を見ることもできません。それに対し、山の上では雲を立体的に見られるほか、上昇気流や下降気流によって雲ができたり、消えたりする様子がよく分かります。湿った空気の入ってくる様子や、山をはさんだ両側の天気の違いを観察することもできます。
山で空を眺めることは、山の楽しみだけでなく、天候の急変など登山におけるリスクを回避する意味でも重要です。気象遭難は天気予報で晴れ予報にもかかわらず、天候が急変するときに起こります。そのようなときにも、雲は天候悪化のサインを私たちに伝えてくれます。例えば、山の上にかかる笠雲は天候悪化の前兆になることが多いですし、レンズ雲や吊(つ)るし雲などは、山の上で風が強く吹いていることや、今後、強風になることを教えてくれます。
また、夏場によく見られる入道雲は、落雷や大雨のサイン(前兆)です。周囲で入道雲がカリフラワー状に成長していくときは、とがった岩や沢のそばから離れ、なるべく低い所や山小屋、避難小屋に避難することが大切です。つまり、空や雲を見ることは、安全な登山を行うために大切な技術であり、空気や雲の変化から天気の変わり目を感じることは、私たちが少しずつ失ってしまった五感で自然の変化を感じ取る能力を取り戻すことにも繋がっていくと思うのです。
雲の動きや形 五感で天気予報
雲や風の変化、空気の匂いや肌で感じる感覚など、五感を使って天気を予想する方法を観天望気と言います。その中でもっともよく使われるのは、雲の動きや形の変化から予想する方法です。
雲はいろいろな形をしていますが、高さによって10種類に分けられています。名前を挙げていくと、すじ雲(巻雲)、うす雲(巻層雲)、うろこ雲(またはいわし雲、巻積雲)、ひつじ雲(高積雲)、おぼろ雲(高層雲)、雨雲(乱層雲)、うね雲(層積雲)、きり雲(層雲)、わた雲(積雲)、入道雲(積乱雲)になります。これらの他に、レンズ雲、吊るし雲、笠雲など特徴的な形を持つ雲は、10種の雲とは別の呼ばれ方をすることがあります。
さて、早速、雲の名前を覚えてみましょう。実は、10種類の雲は、形の特徴から名づけられていますので、上のイラストを見ながらイメージしていくと良いでしょう。あるいは10種の雲は、「巻」「層」「積」「乱」「高」という漢字5種類の組み合わせでできていて、それぞれに意味があります。漢字の意味から雲の形をイメージすると、覚えやすいです。
巻 | すじ状・羽のような形 |
層 | 滑らかに、一様に広がる雲 |
積 | 積み重なり、もこもことした塊状の雲 |
乱 | 雨を降らせる雲 |
高 | 中層(高度2千~7千メートル)にある雲 |
空を見るとき、どの方角を見ればいいの? 登山口→開けた場所→山頂
さて、ここまで雲の種類について学んできましたが、広い空をどのように見ればいいのでしょうか。
まず、空を見るのにふさわしい場所ですが、スタート地点(登山口)と、空が開けた場所や山頂です。
登山口は、高い山に囲まれて空が開けていない場所が多いと思います。そこで、見える範囲で結構ですので、高い山に雲がかかっているかどうかを確認します。その際、登山口で晴れていても山が厚い雲に覆われているとき、山では荒れた天気になっています。そんなときは、登山計画を見直した方が良いでしょう。また、山にかかっている雲の高さがどんどん低くなってくるとき(雲が山のどの辺りまで覆っているかを覚えておく)は、天気が悪化する兆候です。雨具をすぐに取り出せるようにしておきましょう。
次に、空が開けている場所や、山頂に到着したとき、どの方角の空を見ればよいのかをお伝えします。
空を見るときは、基本的に西の空を見ます。「天気は西の空から変わる」という言葉を聞いたことがありますか?
日本列島の上空には偏西風(へんせいふう)と呼ばれる西風が吹いているので、その風に乗って高気圧や低気圧は西から東へ進んでいきます。そのため、天気は西から崩れたり、回復したりすることが多く、西の空に雲が広がってくれば、天気は下り坂、西の空が明るくなってくれば、天気は回復していくのです。
ただし、そうならないこともあります。その場合は、風が吹いてくる方角(風上側)の空を見ていきましょう。雲は上空の風に流されているため、風上側に発達した雲があるときは、その雲が近づいてくる可能性が高くなります。事前に天気図から風向きを読み取っておくのもいいですが、登山中にも確認することができます。登山口や谷の中は、風が地形の影響を受けてしまうので、正しく知ることができません。そこで、開けた場所や山の上に出たときに、風向きを調べましょう。風が吹いてくる方向を体で感じたり、雲の流れから見定めて、風上側の空を確認しましょう。