山に登ることは空に近づくこと。
夏の風物詩でもある入道雲。実は、富士山(3,776m)は入道雲を眺めるのに最適な展望台の一つです。「入道雲なら平地でも見られるよ!」と思ったあなた。富士山で見る入道雲は一味も二味も違うんです。
入道雲は、積雲(せきうん)と呼ばれる塊状の白い雲がソフトクリームのように上方に成長していくことでできます。入道雲は、上空1万メートル以上の高さにまで達する背の高い雲です。そんなノッポ雲なので、平地から見上げると雲の下の部分しか見ることができません。その点、富士山は標高が高い分、雄大な入道雲の全貌を見ることができます。その迫力といったら一言では言い表せません。写真や言葉では伝わらないと思いますので、富士山に行ったときのお楽しみということにしましょう(笑)。
入道雲は人間と同じように一生があります。生まれたての赤ちゃん雲からやる気を出して(成長して)いき、ぐんぐん背が伸びていく青年期になると、雲の中で雨粒や氷の粒が成長し、大粒の雨が降り出します。雲がやる気を出して背が高くなっていくのは、強い上昇気流があるためです。
一方、雨が降り出すと、雨粒が空気を引きずりおろすので、雨が落ちていく場所は下降気流になります。雲の最盛期である壮年期を迎えると、雲の下では土砂降りの雨となり、雷が鳴ったり、雹が降ったりすることもあります。雨が激しく降ることで下降気流が強まり、雲を成長させる上昇気流がなくなります。すると、雲は衰弱しておじいちゃん雲になり、やがては消滅していきます。
富士山ではそうした様々な世代の雲を見ることができます。それは、富士山の周囲が開けていることと、周辺に入道雲がやる気を出しやすい場所があるからです。雲がやる気を出す条件は2つあります。一つは地上付近と上空高い所で温度差が大きくなったとき、もう一つは、地面付近に水蒸気をたくさん含んだ空気(以下、湿った空気)が入るときです。
海からたくさんの水分が蒸発するため、海上の空気は湿っています。富士山の南側には駿河湾があるので、海の方から風が吹くと湿った空気が富士山と駿河湾との間にある愛鷹山や宝永山にぶつかって上昇していきます。上昇した空気は冷やされていくので、水蒸気は雲粒に変わります。この時に上空との温度差が大きくなると、雲はやる気を出して成長していくのです。
従って、愛鷹山や宝永山は入道雲が成長しやすく、その様子を富士山の山頂から観察することができます。また、北側の御坂山地も入道雲が発達しやすい所です。御坂山地は甲府盆地に接していますが、甲府盆地は夏の日中とても暑くなるので、上下の温度差が大きくなり、入道雲がやる気を出しやすくなります。盆地で温められた空気が山にぶつかって上昇すると、入道雲が発達します。
富士山に登ったときには、「あの雲はおじいちゃんかな?青年かな?」と入道雲の成長過程を観察し、青年期のやる気のある雲が近づいてくる前に安全地帯に避難したいものですね。