山に登ることは空に近づくこと。
エベレスト(8,848m)は、ヒマラヤ山脈に聳える世界最高峰です。ネパールと中国(チベット自治区)との国境にあり、ネパール語では「世界の頂上」を意味するサガルマータ、チベット語では「世界の母神」を意味するチョモランマと言います。
写真1 世界最高峰のエベレスト(左側のピラミッド型の山)と筆者
昨秋のマナスルに続き、日本の公募登山隊に参加して、気象予報をしながら登頂を目指しました。これらの山は、私が登山隊やテレビや映画などの撮影隊から気象予報を依頼されることが多いからです。
エベレストは、東西3,000kmにわたって連なるヒマラヤ山脈の東部、ネパール・ヒマラヤに位置します。ネパールは、日本の奄美大島と同じ位の緯度にあるので、平地では亜熱帯の気候になりますが、標高に応じて気候が変わり、標高1,300m付近の首都カトマンズでは温帯気候、標高4,000m付近からは寒帯気候やツンドラ気候になり、標高6,000m付近から上は万年雪の世界です。
また、雨が多く降る雨季と、ほとんど雨が降らない乾季とがあります。雨季は6~9月、乾季は10月から翌年の5月にかけてです。
エベレストのような高い山では上空を吹いている偏西風の影響を受けるので、偏西風が弱まる5~9月が登頂に適していますが、6~9月は雨期で天気が悪いため、5月に登頂を目指す登山隊がほとんどです。私たちも5月中旬から下旬に登頂をする予定で、4月上旬に日本を出発しました。高所の登山では、高度に順応することが大切です。時間をかけて高度に体を慣らしながら、登ったり、下ったりを繰り返して山頂をめざします。
登山の基地になるエベレストのベースキャンプの標高は高度約5,300m。ベースキャンプやそれより上部に約1ヵ月滞在することになりますので、さまざまな雲を見ることができました。現地で見られた雲たちをご紹介します。
写真1 上空に寒気が入って、雲が“やる気”を出した状態(積乱雲)
エベレスト周辺の天気は、朝は晴れることが多く、昼前になると、ガンジス川の下流(南)側から雲が流れ込んできて、午後は霧に覆われたり、雪がちらついたりすることが多くなります。
これは、ベンガル湾からの湿った空気がガンジス川に沿って上流(北側)へと日中の谷風に乗って運ばれていき、ヒマラヤ山脈の大きな谷に沿って雲を発生させるからです。
谷風が強まる午後になると、湿った空気はベースキャンプ方面へも入り込んできます。
写真2 下流側からチョラパス方面へ向かう雲
写真3 午後になってベースキャンプに押し寄せてくる雲
朝は、ベースキャンプから高い場所では晴れることが多くなりますが、朝から山の上に雲がかかっているときは要注意です。その雲が写真4のように、モコモコした形の雲の場合は、大気が不安定な証拠で、その日の午後は雲がやる気を出し(積乱雲が発達し)、落雷や強い降雪になる恐れがあるからです。
写真4 普段は水蒸気が入りにくいチベット側のチャンチェに朝から雲がかかる
次回は、ベースキャンプより標高の高い、エベレスト登山中に見られた雲や不思議な現象をご紹介します。お楽しみに!