山に登ることは空に近づくこと。
今回ご紹介するのは、長野県と岐阜県にまたがる活火山の御嶽山です。10年前の9月27日、御嶽山は突然噴火し、死者58人、行方不明者5人という戦後最悪の火山災害となったことはまだ記憶に新しいことでしょう。犠牲になった方のご冥福をお祈りするとともに、行方不明者のご家族が今も捜索を続けているお気持ちを思うといたたまれません。
そんな怖いイメージのある御嶽山ですが、継子岳(ままこだけ)など飛騨頂上より北側のエリアは東北の山を思わせるような草原が広がり、女性的でやさしい表情を併せ持っている、不思議な山です。
御嶽山はひとつの山のように思われますが、いくつものピークの集合体で、どこから見えも存在感のある大きな山容が特徴です。私の住む長野県茅野市など東側からはプリンのような形をしています。
写真1 プリンのような形の御嶽山(八ヶ岳から)
山の天気は海側から風が吹くと崩れる傾向にあります。それは、海の上は水蒸気が多く、その湿った空気が山に運ばれて山の斜面で上昇させられると雲が発生するからです。
御嶽山の場合は、伊勢湾から木曽川に沿って風が吹くときと、日本海から風が吹くときに湿った空気が入りやすくなります。つまり、南西や西からの風が吹くと、天気が崩れます。特に、南西から暖かく湿った空気が入るときは大雨になります。
図2 御嶽山で天気が崩れるときの風向
晴れた日の御嶽山は、朝のうちはお天気が良いのですが、日中は霧が下からあがってきて昼頃には山頂付近を覆うことが多くなります。日中は谷の下流から上流へと谷風(たにかぜ)が吹くため、この風に乗って水蒸気は、信州側では木曽川から王滝川、白川へと運ばれていき、御嶽の斜面を登るときに雲を作ります。また、飛騨側では飛騨川から小坂川をさかのぼって御嶽の西面で雲を作っていきます。谷風が弱いときや湿った空気の勢いが弱いときは、信州側では王滝山頂でこの雲は堰き止められ、飛騨側では継母岳で堰き止められて、剣ヶ峰など両者の間は青空が広がっていることもあります。このようにひとつの山なのに、天気の違いが体感できるところも魅力です。
写真2 王滝山頂が天気の境界になることも
また、二ノ池付近から上部では北側の空が開け、乗鞍岳や北アルプスの山並みが良く見渡せます。北アルプスを南から眺められるので、西面の飛騨側と東面の信州側との天気の違いを観察するのに適した場所です。特に継子岳付近からは、眼下に長峰峠や開田高原が広がり、乗鞍岳と御嶽山との間にあるこの低地は、雲の通り道になって雲が川のように流れるダイナミックな雲海が見られることも。
さまざまな空や雲の表情を見せてくれる御嶽山は、まさに空の百名山に相応しい山ですね。
写真3 日本海からの湿った空気が飛騨側(左側)で雲を作り、信州側(右側)では好天に。
〇おすすめコース
濁河温泉から飛騨山頂を経て継子岳に至るコースは、滝めぐりから、草原が広がる美しい山容、コバルトブルーの三ノ池、眼下に広がる雲の流れなど見所がたくさんのコースです。また、王滝口からの登山コースも、信州側の展望が常に開けていて王滝山頂が天気の境界になる実感を味わえます。おんたけロープウェイからのコースも木曽側の雲海が素晴らしく、どれも捨てがたいですね。
文、写真:猪熊隆之