空の百名山連載中部山岳

第30回 V字の稜線に流れる雲の神秘~南岳(長野県・岐阜県)~

山に登ることは空に近づくこと。

槍ヶ岳の南側にある南岳(3,033メートル)。槍ヶ岳と穂高岳という、登山者にもっとも人気の高い2座に挟まれて目立たない3,000メートル峰。しかしながら、空を眺めるのには北アルプスでも随一の山です。

 南岳は大キレットのすぐ北側にあります。キレットとは漢字で「切戸」と書き、尾根が切れ落ちている所の意味で、長野県の方言からきた言葉と言われています。風や水蒸気は、山に衝突することを避けるため、キレットのような尾根のへこんだ部分に集まってきます。そのため、南岳や北穂高岳など周囲で雲が取れても、キレット付近には雲が残ります。また、風が強いため、雲の流れが早く、その様子を南岳から眼前に望むことができます。この雲の流れを一日見ていても飽きません。

写真1 大キレットに湧く雲と滝谷の岩壁

 また、南岳は西(岐阜県)側に蒲田川、東(長野県)側には梓川が流れており、両側ともに深い谷間になっています。晴れた夏の日には、岐阜県側で雲海が発生することが多いですが、長野県側で発生することもあります。それは、どちら側に水蒸気が多いかによって決まりますが、それを直接目視できるので、身をもって天気について学ぶことができます。

写真2 梓川からの水蒸気が作る雲と、安曇野の雲海、奥には富士山

 南岳からの展望の魅力は、北穂高岳と滝谷の存在も大きいです。3,000メートルの稜線で大岩壁を正面に眺められる場所は、日本ではここぐらいでしょう。滝谷の岩壁をはい上がる雲たちは、岩壁をさらに近寄りがたく、神秘的な存在に見せます。そして、南岳の小屋やテントサイトで泊まれば、朝夕の絶景と星空を堪能できます。北穂高岳のモルゲンロートと滝谷の大岩壁が真っ赤に焼ける様子は、言葉にならない美しさです。

写真3 モルゲンロートに染まる北穂高岳

〇おすすめコース

槍ヶ岳から中岳を経て南岳に至る縦走路は終始、絶景を楽しむことができるパノラマコース。是非、一度は歩きたいルートです。また、上高地から槍ヶ岳を映す天狗池を経由して登るコースもおすすめ。南岳の空見スポットは、獅子鼻展望台、常念平、プードル岩です。獅子鼻は滝谷とキレットを、常念平はモルゲンロートの北穂高岳と安曇野の雲海や富士山、八ヶ岳、南アルプスを、プードル岩は笠ヶ岳や岐阜県側の雲海を眺めるのに良いでしょう。

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