空の百名山連載関東・山梨

第28回 太平洋から接近する雲を観察できる 海の見張り役 ~鋸山(千葉県)partⅡ~

山に登ることは空に近づくこと。

前回に続いて、鋸山(千葉県、標高330m)です。前回は、天気を予想するには西の空を見ることが大事だと説明しました。それは、日本の上空は夏を除いて、偏西風と呼ばれる西風が吹いており、この風に流されて低気圧や高気圧は西から東へと移動していくことが多く、西から東へと天気が変化するからです。

しかしながら、太平洋側の地域では、太平洋から湿った空気が入ってくるときも天気が崩れることがあります。太平洋に突き出た房総半島では、特にその傾向が強く、南側にある太平洋からモクモクとした入道雲の雲列が現れたら、その動きに注目しましょう。それらの雲が近づいてきたときは、天候が急激に悪化する恐れがあります。南から西側の空が開けた鋸山は、こうした空の「見張り役」としてもふさわしい山です。

写真1 手に届きそうな距離に浦賀水道が広がる

 夏の晴れた日には、海陸風(かいりくふう)という風が吹きます。夜間から朝のうちは、陸風(りくかぜ)と呼ばれる陸から海へ風が吹き、日中は次第に、海風(うみかぜ)と呼ばれる海からの風が吹きます。お台場や東京ディズニーランドなど、沿岸部の観光地に行くと、日中、海からの風が強くて帽子が飛ばされそうになった経験をお持ちの方がいらっしゃることでしょう。これは海風の成せる技なのです。

図1 海陸風(かいりくふう)の仕組み

 さて、海風はお天気の良い日に吹く風なのですが、10~15kmくらいまでしか内陸へと進むことができず、そこで上昇させられます。日本の夏は蒸し暑く、空気中に水蒸気がたっぷり含まれているので、この空気が上昇すると積雲(せきうん、別名わた雲)が発生します。この雲が海岸線に沿って並んでいるのを鋸山から見ることができ、わた雲が並んでいる様子は何とも可愛らしい姿です。

写真2 太平洋からの湿った空気が房総丘陵で上昇させられてできた雲

しかしながら、この雲は日中、地上付近が熱せられると、“やる気”を出してぐんぐんと上方へ成長していき、入道雲(にゅうどうぐも)になります。さらに、上空に寒気が入ったり、地面付近に温かく湿った空気が入ったりして、雲がさらに“やる気”を出せる条件になると、入道雲はさらに成長して、積乱雲(せきらんうん、別名雷雲)と呼ばれる、落雷や豪雨をもたらす怖い雲になっていきます。

 特に、房総半島の内陸部では昼間の気温が上がり、熱せられた空気が山に運ばれて上昇させられるため、積乱雲が発達しやすい場所と言えるでしょう。そうした雲が“やる気”を出していく様子を観察できるのも鋸山の魅力です。

写真3 東京湾を望む展望台からうろこ雲が広がる空を見上げる

〇おすすめコース

 時間があまりないときは、車力道コースから「東京湾を望む展望台」へ。もっとも展望が良く、空を見るのに絶好のポイントなので、ここで時間をたっぷり取り、のんびりと雲や海をめでましょう。さらに、鋸山山頂を往復して観月台コースを下山します。時間があるときは、山頂を往復した後、日本寺の境内に入り(有料)、地獄のぞきや大仏を見学するのも良いでしょう。また、ロープウェイを利用すると、ロープウェイ山頂駅の展望台から東京湾などの絶景を満喫することができ、歩行時間を短縮することができます。自家用車の方は、有料の自動車道路を経由して山頂駐車場や大仏口まで入ることで、アプローチを短縮することができます。

写真4 桜咲く観月台から鋸山を振り返る

 

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