登山中に出会ってみたい現象のひとつ、ブロッケン現象。
霧に中に妖怪のような人影が映り、影の周りに虹色の輪ができる現象です。ドイツのブロッケン山で良く見られたことからこう呼ばれています。ヨーロッパでは、「ブロッケンの妖怪」と恐れられてきましたが、日本では、昔から「御来迎」と呼ばれ、後光を背負った阿弥陀如来の出現と考えられ、ありがたがられてきました。
ブロッケンは、太陽の光が雲や霧の粒を回り込み、沢山の雲粒で回り込んだ光が重なり合うことで光の縞模様ができる現象です(山の観天望気「山と溪谷社」より)。
写真1 飛行機から見下ろしたブロッケン現象。飛行機の影が投影している
雲や霧が自分より低い場所にあり、太陽が後ろから射すときにしか見られません。したがって、飛行機や山の上でしか出会えない現象です。まさに登山者冥利につきますね。山を歩いているとき、稜線を境にして片方が霧で、片側が晴れていてそちらに太陽があるときはチャンスです。カメラを用意しておきましょう。
ブロッケン現象を狙うには次の3つのポイントを押さえましょう。
1.地形的に見られやすい山を選ぶ
細い稜線や、片側が切り立った崖になっている場所で良く見られます。そのような場所は山では結構ありますので、ブロッケン現象を狙うときは、地形的に見られやすい山を選ぶといいでしょう。
2.稜線を挟んでどちら側に雲が出やすいのかを気圧配置から予想する
ブロッケン現象は、稜線を挟んで片側に霧、片側に太陽が出ていないと見られません。したがって、稜線のどちら側に霧が出そうなのかを考えないといけません。これが結構難しいのですが、低気圧や前線など稜線の両側で雲に覆われてしまうときは見られませんので、そのようなときは避けましょう。標高2,500m以上の高い山では、夏場の太平洋高気圧に覆われた日がチャンスです。その際、盆地や平地に接している側など水蒸気が多い側で霧が発生しやすくなります。常念山脈や後立山連峰では安曇野側、白馬側で水蒸気が多くなります。
日中、谷風による上昇気流が発生すると、次第に雲が湧き立っていき、稜線の東側で霧が発生します。一方、槍ヶ岳~穂高連峰では飛騨(岐阜県、西)側で水蒸気が多く、日中谷風が強まっていくと、飛騨側から霧が発生します(図1参照)。ただし、いずれの場合も水蒸気が多すぎると、稜線全体を霧が覆ってしまうことがあります。
図1 北アルプスの水蒸気が多い側と少ない側
また、谷川連峰など分水嶺の山では、日本海から湿った空気が入るときに新潟県側で、太平洋から湿った空気が入るときは群馬県側で霧が出やすくなります。どちらで出るかは風向きによります。新潟県側から風が吹くときは新潟県側で、群馬県側からの風が吹くときは群馬側で雲が発生しますので、天気図から風向をチェックしていきましょう。天気図から風向を判断する方法は、youtubeのヤマテンチャンネルでご確認ください。
ヤマテンチャンネル
3.ブロッケン現象が見られる時間帯を狙う
稜線のどちら側で雲が発生するのかを予想したら、次はどの時間帯を狙うかを確認しましょう。
夏場の常念山脈や後立山連峰では安曇野側、白馬側で霧が発生しますから、太陽が西側に来る午後がチャンスです。稜線の向きが北西から南東に向いているところでは、午後の早い時間、北東から南西に向いているところでは、夕方近くになったときがチャンスですが、太陽高度が低すぎるとブロッケン現象は見られません。
槍ヶ岳~穂高連峰では西側で霧が発生するので、午前中の方がおすすめです。午前中の早い時間は谷風があまり強くなく、上昇気流が弱いことから水蒸気はまだ標高の低い所に溜まっているので、高気圧に覆われているときは、稜線まで雲があがってくることはありません。したがって、午前中遅い時間の方がチャンスです。
写真2 小蓮華山で見られたブロッケン現象
信越国境の小蓮華山や谷川連峰の谷川岳トマの耳~平標山では東西に稜線が延びているので、昼間に見られることが多くなります。いずれも新潟県側に雲が広がっているときがチャンスです。予想天気図で風向きをチェックし、低気圧が東に抜けて等圧線の間隔が広がってきたときなど、新潟県側から弱い風が吹いているときを狙いましょう。等圧線の間隔が狭いと、風が強いため、稜線を越えて群馬県側まで雲に覆われてしまうことや、稜線上では風雨(雪)が強まる荒れた天気となるため、避けた方が良いでしょう。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
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