観天望気講座講座

猪熊隆之の観天望気175回

山麓は悪天、山頂は青空

登山口では晴れていたのに、山頂では霧に覆われていた、という経験をお持ちの方は多いと思いますが、高い山では、山麓では低い雲に覆われて弱い雨が降っていても、山頂で晴れていることがあります。夏の富士山は、そういったことも多いですね。

さて、先日の八ヶ岳でも同じことが起こりましたので、その原因について探ってみましょう。今回の内容はちょっと難しいので、中~上級編です。

写真1 山麓を覆う雲

写真1のように、山麓は雲に覆われています。ここで見られる雲は2種類あります。雲頂が平らな雲は、高度が低い所に浮かんでいる下層雲(かそううん)、青空をはさんで上側に見られる雲は、高度3~5km付近に浮かぶ中層雲(ちゅうそううん)です。

まずは、下層雲について見ていきましょう。どうして雲のてっぺんが平らになっているのでしょうか?それは雲の上端に逆転層(ぎゃくてんそう)と呼ばれる非常に安定した層があるからです。逆転層とは写真2のように、雲を挟んで下側に冷たい空気、上側に温かい空気がある状態を逆転層と言い、このようなときは、雲の上に出れば、雲海が広がる晴天になります。八ヶ岳で晴れているのも、八ヶ岳がこの蓋より上にあるからです。

写真2

図1 八ヶ岳山麓の大気の状態曲線(大気の状態を示したグラフ)

逆転層では、空気に蓋をしたような状態になり、蓋の上に雲が昇っていけないので、雲は水平に広がる傾向があります。この日の天気図を見ると、八ヶ岳山麓では高気圧の周辺部にあたり、東~南東風が吹くことが想定されます。

図2 写真1,2を撮影した時間帯の天気図

図:山の天気予報 https://i.yamatenki.co.jp/ より

諏訪から小淵沢にいたる谷では、北東~北側に車山~蓼科山~八ヶ岳、南西~南側に守屋山~入笠山~甲斐駒ヶ岳があるため、東~南風が吹くときは、この谷に沿うように南東風が吹きます(図3の紺色の矢印)。この風によって下層雲は南東から北西側に流れています。

図3 八ヶ岳山麓周辺で吹く風(山の天気予報 850hPa気温・風予想図より)

しかしながら、今回は、その上にも雲があります。この雲は上空3~5km付近に浮かんでいる高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)です。この雲は、下層雲とは違う方向に流れていきました。これは、図4をご覧いただくと分かるのですが、上空3~5kmでは南西風が吹いているからです。

図4 八ヶ岳周辺の上空3,000m付近の風(山の天気予報 700hPa風・気温予想図より 風向の見方は図5参照)

図5 風向の見方

青空が見えているのは、南西風が中央アルプスを越えて下降流が起き、雲が蒸発して弱まっているからです。

この辺り、動画の方が分かりやすいと思いますので、下記のURLからアクセスしてみてください。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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