観天望気講座講座

猪熊隆之の観天望気191回 ~日本海からの水蒸気の流れと逆転層~

今回は、2月上旬に八ヶ岳連峰の硫黄岳から見られた雲についてです。

ヤマテンの気象予報士のコメントで、「冬型が弱まっていくため、標高の高い場所や風下側から天気が回復していく。」と書かれることがありますが、皆さんは「標高の高い場所の方が天気の回復が遅れるのでは?」と不思議に思ったことはないでしょうか?

冬型が弱まっていくときには2つのパターンがあります。ひとつは、上空3,000m以上の高い所では寒気が抜けていくのに、2,000m以下の低い所では寒気が残る場合、もうひとつは、低い所の寒気から抜けていき、高い所の寒気が残る場合です。前者の場合には、標高の高い山から天気が回復しますが、後者の場合には、標高の低い山から天気が回復します。今回、見られた雲は前者になります。早速、写真を見ていきましょう。

写真1

遠くに見える白い山並みが北アルプスです。その手前に右から左に流れている雲が見えます。この雲はうね雲(層積雲)と呼び、地上付近と上空2,000m付近とで温度差が大きいとき、また海からの湿った空気が入るときにできる雲です。この日は冬型の気圧配置が弱まっていき、西から高気圧が近づいていましたが、高気圧の前面では北西~北風が吹いているので、日本海で発生した雲が新潟県側から長野県方面に入ってきます。この雲は、上空の寒気が強いと“やる気”を出して成長し、発達した雪雲になっていきますが、冬型が弱まった状態では上空の寒気が弱く、“やる気”を出せません。そのため、うね雲は高度が低く、雲頂の高さが2,000m位です。標高の高い北アルプスではうね雲の上になるので晴れています。雲の高さが2,000m付近なのは、その高度に逆転層ができているからです。通常は、高い所に行くほど気温が下がっていくのが普通ですが、下の方が冷たい空気、上の方が温かい空気というように普通とは逆になっている空気の層のことを逆転層と言います。逆転層は空気の中の敷居のようなもので(図1)、雲は敷居に頭を押さえられてそれより上には成長できません(図2)。そのため、雲頂の高さが綺麗に揃った平らな雲ができます。

図1 逆転層ができる様子

図2 冷たい空気の中で上昇気流が発生してできる雲

写真2 写真1に説明を加えたもの

うね雲は、北アルプスの手前側にある白馬から松本盆地にかけて覆っています。ここは、山に挟まれて標高の低い谷間になっています。うね雲は高度が低く、北アルプスや美ヶ原を越えられませんので、手前側の白馬-松本の谷間や長野盆地から上田盆地へと千曲川に沿って流れていきます。この谷間を流れている雲が写真で見られている雲です。雲は谷に沿って南に動いていきますが、塩尻峠などの峠を越えると下降して温められるため、蒸発していきます。また、雲は高度が2,000m位のため、美ヶ原や鉢伏山など2,000m級の山を越えられず、車山~高ボッチなどは晴れています。山の上からは、こうした水蒸気や雲の流れが良く分かります。雲が教えてくれる空気の営みが分かってくると、空を見ることがどんどん楽しくなっていきます!

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

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