さて、第一座目は白馬岳(しろうまだけ)。北アルプス北部に屹立する名峰を真っ先に取り上げたのは、個人的に大好きな山であることと、空を見るのにこれほど楽しい山はなかなか見当たらないからです。
その理由として天候が変化に富み、雲がさまざまな表情を見せてくれることや、尾根を挟んで崖と緩斜面になっているのでブロッケン現象などの光学現象が見られやすいこと、そして夕焼けの美しさが挙げられます。
雲がダイナミックに変化するのは日本海から近く、海からの湿った空気が入りやすいからです。雲は水蒸気を含んだ空気(湿った空気)が上昇し、水蒸気が冷やされることで発生します。日本海から風が吹くと、湿った空気が白馬岳に沿って上昇し、雲になっていきます。
白馬岳は気象遭難が多い山です。それは天候が急変しやすいことと、尾根上はなだらかなお花畑が続くため、激しい風雨に襲われると逃げ場が少ないことによります。気象遭難を防ぐためには、雲を見て風の変化を感じることが重要になります。風の強まりや風向きの変化、日本海方向に出現する雲が天候急変のサイン(兆し)です。
したがって、風の変化を意識するとともに、旭岳~清水岳方面の空、つまり日本海方面の空を時々見るようにしましょう。また、白馬岳では「剱岳上空につるし雲(レンズ雲※)がかかると、2~3時間後に天気が崩れる」ということわざがあります。
※風が強いとき、山を越えるときにできた波が風下側や上空に伝わり、その波によってできる雲
厳しい気象条件と冬季の豪雪が他の植物の侵入を許さず、北アルプス隋一とも言えるお花畑の群落と緑の草原が広がる風景はまるで天空の楽園のようです。また、大雪渓が白馬岳の魅力を一層引き立てています。雲と雨、雪の恵みがこれらの美しい景色を生み出していることを考えながら山に登ると、白馬岳をもっともっと好きになるかもしれませんね。
空の百名山 朝日新聞長野版、富山版、福井版にて連載中
朝日新聞長野版、富山版、福井版2019年2月27日掲載
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文、写真:猪熊隆之