夏には避暑地として知られる白馬山麓でも実は、水蒸気が増加します。夏になると日本付近は太平洋高気圧に覆われます。この高気圧に覆われると朝晩は晴れますが、日中は山腹から雲が湧き立っていき、午後になると山頂でも雲に覆われてしまうことが多くなります。それは何故でしょうか?
高気圧に覆われると上空を吹く風は弱くなりますが、山では山谷風(やまたにかぜ)という山岳地特有の風が吹きます。日中は谷風(たにかぜ)という麓(谷)から山の上に向かう風が次第に強まっていき、水蒸気が冷やされて雲になっていきます。特に、沢(谷)沿いでは風が吹き抜けやすく、谷風が強まります。
白馬岳には大きな谷、大雪渓(だいせっけい)があります。白馬尻(はくばじり)から大雪渓に入ると、それまでの蒸し暑い空気が一転、天然クーラーのような涼しさに包まれてホッとします。この雪渓上の冷たい空気が水蒸気を冷やし、霧が発生させるのです。大雪渓の上で霧が立ち込めているのを良く見ます。
この霧が谷風によって斜面を上昇し、雲に成長していきます。谷風が強まる日中、稜線へと上昇した雲は、大雪渓から稜線に続く白馬岳~杓子岳(しゃくしだけ)の鞍部(あんぶ※)を通り抜けていきます。運が良いと白馬山荘や杓子岳山頂から、この流れるような雲が見られることがありますが、実はこの雲が見られるときは天気が崩れることが多く、運が良いのか悪いのかはあなた次第です・・・(笑)。
逆に、日本海から風が吹くときには鞍部から大雪渓へと雲が流れ落ちて滝雲になることもありますが、僕はまだ見たことがありません。ぜひ一度見てみたいものです。
一方、朝のうちや夜間は山風(やまかぜ)という山から麓に風が吹き降ろします。空気は下降していくと温まっていくので、雲は次第に蒸発して水蒸気に戻っていきます。つまり、夜間や朝のうちは好天になることが多く、山で絶景を楽しむなら、稜線上にある山小屋に宿泊するのが一番です。白馬岳には白馬山荘、白馬村頂上宿舎の2つの山小屋があり、空見(そらみ)をするには絶好のロケーションと言えるでしょう。
山頂で泊まるお時間のない方や、白馬岳の登頂が厳しい方には白馬大池(はくばおおいけ)までの往復がおすすめです。僕の至福の時間は池の畔で寝っ転がること。風が吹くと、お花畑が耳元でサワサワと囁き、池の周囲にある雪渓から立ち昇る霧の動きに風の変化を感じ、水が蒸発して再び霧という水滴に変わる自然界の輪廻(りんね)に思いを寄せると胸が熱くなってきます。そして風が止むと池に映る青空と雲の流れに思考が停止していく・・・。こんな瞬間が最高に幸せだぁ! ※山頂と山頂の間にある、尾根上の凹んだ部分
空の百名山 朝日新聞長野版、富山版、福井版にて連載中
朝日新聞長野版、富山版、福井版2019年3月27日掲載
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文、写真:猪熊隆之