山に登ることは空に近づくこと。
千葉県の鋸山(標高330m)は、日本寺、石切り場、絶景の山上と多彩な面を持つ山で、ロープウェイや車でも山頂近くまでアクセスができることから、登山というよりも観光地としての性格が強い山です。そういう意味では高尾山や六甲山と似ているかもしれません。
山の南側は、東京ドーム約7個分という広大な敷地を擁する日本寺の境内で、日本一の磨崖仏や切り立った崖の上にある「地獄のぞき」と呼ばれる展望台、数多くの石仏が安置されている「千五百羅漢道」など、境内を歩くだけでも十分楽しめる山です。
一方で、山の北側は、かつての石切場の跡が連なっています。樹林越しに望む絶壁は、圧倒的な存在感を放ち、あの「天空の城ラピュタ」を思い起こさせます。「ラピュタ壁」と呼ばれる石切場跡があるほどです。その神秘的な風景は、アニメの世界に入ってきたかのような不思議な感覚を味わえるとともに、当時の工夫や石を運んだ女性たちの苦労を偲ぶことができます。
写真1 「天空の城ラピュタ」を思い起こさせる石切場跡
さて、この山が空を見るのに相応しい理由は、その位置にあります。鋸山は東京湾の入り口である浦賀水道の沿岸に位置し、海岸から山頂までの距離は3kmにも満たない、海沿いの山です。浦賀水道の先には広大な太平洋が広がり、黒潮と呼ばれる暖流が流れています。海の上を風が吹き抜けていくと、その空気は海からの水蒸気の補給を受けて湿った空気になっていきます。特に、黒潮が流れるような海水温が高い場所では、海からの蒸発量が多く、水蒸気の補給量が多くなります。
このため、周囲から空気が集まって上昇気流が発生したり、鋸山など房総半島の山にぶつかって上昇させられたりすると雲ができます。こうしてできた雲が浦賀水道から東京湾に沿って、列を成していく姿は壮観です。
写真2 東京湾の上を連なっていく積雲
図1 鋸山の位置と、空を見るポイント
また、天気は夏の時期を除いて、西から変化することが多く、今後の天気を予想するには西側の空を見ることが重要です。西側に海があって西の空が開けているので、鋸山は雲を見て天気を予想する観天望気(かんてんぼうき)にピッタリの山なのです。西の空に暗い雲が広がってきたときは、天気が崩れることを想定しましょう。逆に、相模湾越しに富士山が望める日は、お天気の心配はないでしょう。