空の百名山連載北陸・信越中部山岳

第23回 雲が生み出す波と虹の光輪  小蓮華山

山に登ることは空に近づくこと。

今回は、信越国境にある北アルプスの小蓮華山(2,766m)を取りあげます。新潟県の登山者は県内最高峰の山ということで馴染みがあることでしょう。白馬岳への登山ルートにもなっていますから、名前をご存じない方でも知らないうちに通っているかもしれません。 

2021年の9月と10月の2回、NHK BSの「テントを背負って」という番組の収録で小蓮華山を訪れ、この山で雲や空を眺めることの楽しさを改めて気づかされました。この番組をご覧いただければ、ご納得いただけるでしょう(笑)。

写真1 船越の頭から朝日に染まる小蓮華山

 小蓮華山でぜひ見ていただきたい光景は、雲海とブロッケン現象です。小蓮華山は、白馬岳から雪倉岳に延びる稜線と、越中(富山県)を含めた三国境から東に延びる稜線との角に近く(図1参照)、東側の白馬バレーで発生した雲海が白馬連峰に向かって流れてくると、山で進路を阻まれて眼下に雲が溜まっていきます。雲海が押し寄せる様子は、まるで海の波が打ち寄せるよう。それを正面から見下ろすことができる小蓮華山は、まさに雲海の大展望台です。

               図1 小蓮華山 位置図

写真2 白馬連峰に押し寄せる雲

また、小蓮華山は「ブロッケン現象」が見られやすい山でもあります。ブロッケン現象は、 影の周りに虹のような光の輪が現れるもの。細い稜線や、片側が切り立った崖になっている場所で、崖側に雲や霧があり、反対側から陽がさしているときに見られます。小蓮華山では山頂から「船越の頭」にかけての稜線上でよく発生します。船越の頭付近では春や秋は朝のうち、夏は午前中の遅い時間に発生回数が増えます。新潟県側に雲が広がっているときがチャンスです。

小蓮華山でこの現象が見られやすいのは、信越国境にあり、長野県側と新潟県側とで天気が異なることが多いためです。日本海に近い新潟(北)側に湿った空気が入りやすく、雲が発生しやすいのです。太陽は日中、長野(南)側にあるので、新潟側にブロッケン現象が見られます。

写真3 ロケ中に見られたブロッケン現象(小蓮華山山頂付近)

〇おすすめコース

 なんといってもおすすめなのは、ロープウェイで行くことができる栂池自然園から白馬大池を経て小蓮華山に登るルート。足が速い人であれば日帰りもできますが、慌ただしいので、白馬大池で1泊することをおすすめします。白馬大池山荘に泊まるも良し、小屋の前に広がる幕営指定地でテントを張るのも良し。周囲は夏、色とりどりの花が咲き乱れる別天地となっており、秋になると、ナナカマドの紅葉や、チングルマなどの草紅葉が草原を彩ります。

1泊すると、白馬大池で時間ができるので、池のほとりで寝っ転がって空を見上げてみましょう。雲が生まれる瞬間や、雲の命が尽きる瞬間を目にすることができ、自然は常に変化することを実感させられます。青い空を見ていると、下界の嫌なことも忘れて気持ちがスッキリすることでしょう。

写真4 雲や空を映す白馬大池。できれば1泊して空をのんびりと眺める時間を作りたい