谷川岳(たにがわだけ、標高1,977m)は、日本海と太平洋の分水嶺(ぶんすいれい)に位置し、天候変化の激しい山として知られています。かつては岩場の開拓のために多くの登山者が一ノ倉沢などの大岩壁を攀じ登り、転落などで多くの死者が出ました。「魔の山」と呼ばれ、世界でもっとも多くの遭難死亡者を出している山としてギネスにも認定されているのは、そういう時代があったからです。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」というフレーズはあまりにも有名ですが、国境の長いトンネルとは谷川岳の直下をくぐり抜ける清水トンネルのことです。現在では、在来線の清水トンネルに変わって、上越新幹線の大清水トンネルを利用する人が圧倒的に多いでしょうが、冬に東京から新潟に向かうとき、トンネルの手前である高崎辺りまでは雪がなく、空もカラッと晴れているのに、トンネルを抜けた越後湯沢や魚沼盆地では背丈をはるかに超える積雪があり、吹雪いているという経験をした方は多いと思います。 梅雨の時期は逆に、関東地方で天気が悪く、新潟側で晴れていることが多くなり、谷川岳では稜線を挟んで群馬側がガス、新潟側が晴れることが良くあります。逆に、新潟側がガスで上州側が晴れると日中、ブロッケン現象が現れるチャンスです(写真6)。稜線を歩いていると、左足が霧、右脚は晴れ、ということがあるかもしれません(笑)。
そんな、「天下分け目」ならぬ、「天気分け目の山」ですから、山の天気を学ぶのにも適しています。新潟県側から風が吹くときは、日本海からの湿った空気が入り、群馬県側から風が吹くときは、太平洋から利根川に沿って湿った空気が入ってきます。その湿った空気が上昇して冷やされると、雲ができます。山頂に立つと、「海側から風が吹くときに、山の天気は崩れる」という山の天気の基本を実感できることでしょう。
天気だけでなく、地形も新潟側と群馬側で異なります。新潟側では緩傾斜なのに対し、群馬側では絶壁になっています。有名な一ノ倉沢の大岩壁も群馬側です。このため、冬の季節風が大雪を降らせると、新潟県側から飛ばされた雪が群馬県側に堆積(たいせき)し、東面や南面の各沢は雪崩の巣になります。雪崩が岩壁を磨き、スラブが発達します。一方、新潟県側では灌木(かんぼく)帯や草原になっており、秋の紅葉は見事です。このように、天気と地形の二面性を持つ谷川岳。山頂に立って実感してみてください。