空の百名山連載中部山岳

第5回  燕岳冬編 ~氷雪と寒気が造り出す空の芸術~

山に登ることは空に近づくこと。

第四回に続き、今回も燕岳(つばくろだけ)。前回紹介した燕山荘(えんざんそう)は、年末年始に営業を行っている北アルプスでは数少ない山小屋です。冬は夏とは違った空や山の景色を堪能することができます。

燕岳は冬山の入門コースとして知られています。それは、風上側に高い山があるため、日本海からの雪雲がそこで堰き止められ、北アルプスの中では天気が良いことや、登山道の合戦尾根は風下側にあるため、大荒れの時以外はそれほど風が強まらないこと、尾根上にルートがあるため雪崩の危険が少ないからです。それだけでなく、晴天率も北アルプスの中ではもっとも高く、空を見るのに適した山とも言えます。

それでも年末年始は吹雪が続く年もあります。そんな吹雪が続いた後、陽光輝く世界へ変わる瞬間は感動的です。澄み切った青空と真っ白な雪、太陽の光を受けてキラキラと輝く樹氷の木々・・・。そんな瞬間に出会えたら、あなたも冬山の虜になるはずです。

朝陽を受けて輝き出す樹氷をまとった木々

また、冬にしか見ることができない景色もあります。その代表はシュカブラと呼ばれる風紋です。砂漠の風紋と同じように、風が雪を運搬し、写真のような美しい模様を造り出すのです。まさに自然の芸術です。

風と雪が造り出す冬の風物詩、シュカブラと燕岳

晴れた日の最大の楽しみはモルゲンロート(朝焼け)の瞬間。槍ヶ岳から南岳に朝陽が当たり、薄紅色に染まります。さらにこの時期、晴れた日にはビーナスベルトと呼ばれる大気現象がよく現れます。ビーナスベルトは、太陽と反対側の地平線に近い空がピンク色に染まる現象です。日の出直前、日の入り直後に見られますので、日の出前には西の空を、日没後には東の空に注目してみてください。

朝日新聞長野版、富山版、福井版2019年5月30日掲載

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文、写真:猪熊隆之