空の百名山連載

第17回 特別編 日本海の雪雲と信越の気象

冬になると、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れ、といった天気が多くなります。それは冬型と呼ばれる気圧配置になることが多いからです。冬型とは中国大陸の奥地に高気圧、千島列島や三陸沖など日本の北や東に低気圧が位置する気圧配置で、日本から見て西に高気圧、東に低気圧があるので「西高東低(せいこうとうてい)型」とも呼ばれます。

冬型になると、日本海で雪雲が発生し、その雲が北西の季節風に流されて日本海側に雪や雨をもたらします。一方、日本の中央部にある山を越えると雲は消えていくため、太平洋側では天気が良くなるのです。

冬型になると、中国大陸から日本に向かって風が吹きます。大陸育ちの風は、はじめ冷たくて乾いています。それが日本海を渡る間に、下から水蒸気の補給を受けて湿った空気に変わっていき、雲が発生します(イラスト参照)。


日本海を渡る間に発生、成長する雪雲(「山岳気象大全」 より)

また、日本海の水温が高いので、海に接した下の方の空気は次第に温められていきます。一方、上空はシベリアからの冷たい空気に覆われています。そのため、空気の高い所と低い所の間で温度差が大きくなり、大気が不安定となって対流(たいりゅう)が発生します。対流というのは、上下の温度差が大きくなるときに、温度差を和らげようとして起こる空気の運動のことです。

対流により、暖かい空気が上昇するところで雲が発生し、冷たい空気が下降するところでは雲が出来ません。したがって、雲が出来る所と出来ないところが交互に現れます。


写真1 対流により発生した日本海の雲

しかし、対流が弱いときは、写真1のように、雲は雪を降らす雲にまで発達しません。夏場の雷雲と同様に、大気が不安定で、雲がやる気を出せる環境になって雪雲は成長していきます(写真2)。冬の日本海の水温は日によってあまり変わりませんから、雲のやる気を左右するのは上空の寒気の強さになります。5,500m上空でマイナス36℃以下の寒気が入ると、新潟県や長野県北部で大雪となる恐れがあります。


写真2 上空に寒気が入って“やる気”を出した雪雲

一方、雪雲は山を越えると下降気流によって蒸発し、弱まっていきます。

写真3を見ると、雪雲が山を越えて弱まる様子がよく分かります。山の反対側(写真では奥の方。日本海の方向)から押し寄せてきた雲が山にぶつかって上昇して成長。山を越えると下降気流となるため、雲が蒸発してなくなっています。山の手前側の松本盆地では雲が全くない状態です。


写真3 北アルプスにかかる雪雲と風下側の晴天域

写真4は、この日に地上から撮影した写真です。撮影した松本空港上空では青空が広がっていますが、山の方には帯状の雲が広がっており、北アルプスでは吹雪となっています。


写真4 北アルプスにかかる雪雲

冬型になると、日本海には塊状や筋状の雪雲や雨雲が現れることが多くなります。衛星画像で見ると、筋状にきれいにならんだ雲が見られます。この雲も一様ではなく、済州島や屋久島の風下側には渦を伴った雲が連なるカルマン渦が見られることがあり、日本海側の地方に大雪をもたらす、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)に伴う雲が見られることもあります。


画像1 済州島の風下側に現れたカルマン渦(ひまわり8号リアルタイムwebより)

 ところで、ひとことで冬型といっても、山雪型といって山沿いで大雪が降るタイプと里雪型という平野部や沿岸部で大雪となるタイプとがあります。今冬は、日本海側でたびたび大雪に見舞われていますが、昨年12月14日から17日にかけては新潟県中越地方と群馬県北部の山沿いで大雪となり、新潟県内の関越自動車道では最大2,000台以上の車が立ち往生しました。


図2 24時間降雪の最大値(12月14日~17日)

 また、年が明けた1月7日から11日にかけては、新潟県と北陸地方の沿岸部、平野部で大雪となりました。新潟県の高田(上越市)で249センチ(11日)、新発田市で130センチ(11日)、富山市128センチ(10日)など1986年以来35年ぶりの積雪を観測しました。北陸自動車道や国道8号など各地で数百台から1,000台以上の立ち往生が発生しました。


図3 24時間降雪の最大値(1月7~11日)

 昨年12月中旬が山雪型による降雪、今年1月7日から11日にかけての大雪は里雪型によるものでした。図2と図3の降雪量を見てみると、山雪型による降雪(図2)では、北陸地方の山沿いで降雪量が多くなっている一方で、新潟市など沿岸部での降雪量は少なくなっています。里雪型による降雪(図3)では、新潟県上越地方から中越地方の平野部で日降雪量100cmを越えるドカ雪となり、新潟県から北陸三県の平野部の広い範囲で日降雪量が50cmを越えています。このように、里雪型と山雪型とでは大雪になる場所が大きく異なります。里雪型と山雪型は天気図で簡単に見分けられるので覚えておきましょう。

山雪型の特徴は、等圧線が縦じまに並んでいて間隔が狭いことです(図4)。北海道から九州にかけて線が5本以上、あるいは本州に4本以上線が走っていることが目安です。このようなとき、北西風が強まり、沿岸部では吹雪になりますが、降雪量は少なく、上空の寒気が弱まると、晴れ間が出ることもあります。


写真5 冬の日本海側の天候は変わりやすい。雪雲と晴れ間の境界

図4 山雪型の天気図(気象庁提供)

このため、沿岸部では積雪はあまり増えませんが、山沿いでは日本海からの雪雲が山にぶつかって上昇して発達するため、雪雲は弱まる間もなく、次の雪雲がやってくるということを繰り返して大雪となります。等圧線が南北に立っているときは、中野・飯山地域や長野周辺で雪の量が多くなります。

 一方、里雪型の天気図(図5)は、本州付近に走っている線は3本以下で、北陸地方で線が袋状になっています。このような特徴が見られるときは、平野部や沿岸部で大雪となる一方で、山沿いでは雪は小康状態となり、青空が広がることもあります。長野県では、線の間隔が狭い所と広い所の境にあるときは大北地域、上高地・乗鞍地域、木曽地域で雪の量が多くなり、上層の寒気が強いと広い範囲で降雪になりますが、線の間隔が広いエリアに完全に入ると、全域で晴れることが多くなります。


図5 里雪型の天気図

 また、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)が大雪をもたらすことがあります。1月7日から11日にかけての大雪もJPCZが原因のひとつです。JPCZは、シベリアからの北西の季節風が朝鮮半島北部にそびえる高い山脈にぶつかって分かれ、日本海で北寄りの風と西寄りの風が衝突することによって発生します。風と風が衝突すると、上昇気流が強められるので、雪雲が発達します。特に、今回のように上層の寒気が強いと短期間に激しい降雪をもたらす積乱雲に成長します。それがかかる場所では大雪となり、北陸三県で降った大雪はこれによるものです(画像2の赤線枠内部分)。


画像2 JPCZに伴う発達した雪雲(10日午前1時 赤外画像より 気象庁提供の図に猪熊が作図)

 一方、新潟県の沿岸部で降った大雪は、この延長線上という見方もできますが、実際には内陸からの陸風と、海側からの北風が衝突すること(沿岸前線とも呼ばれる)によって雪雲が発達したことによります。

〇近年の新潟県、長野県北部の降雪傾向  90年代以降、北陸地方の平野部の積雪は激減しましたが、平成18年(2005/06)豪雪、平成24年(2011/12)豪雪、平成30年(2017/18)豪雪など2000年代後半からは数年に1度程度、大雪に見舞われています。それに対して、2006/07年、2018/19年、2019/20年など記録的な少雪となる年が増えており、積雪や降雪が極端に少ない年と多い年との差が顕著になってきています。また、昔は平野部では12月下旬に根雪となって寒波が来るたびに積雪が増えていき、2月中旬から下旬に最深積雪を観測することが多かったですが、近年は短期間に大雪が降った後、急激な昇温や降雨で積雪が減少するため、急激な積雪増と積雪の減少を繰り返すことが多くなっており、沿岸部では根雪になることが少なくなってきています。そのため、積雪深は昔のように多くはならなくても、短期間に多量の降雪となるため、交通障害や雪崩のリスクが増える傾向にあります。