空の百名山連載東北

第20回 日本海育ちの雲たちに育まれた、花と雪の名峰 鳥海山

山に登ることは空に近づくこと。

 2014年7月。酒田市内から初めて対面した鳥海山は、実に堂々として、それでいて美しく、一目惚れしてしまいました(笑)。私が初めて鳥海山を訪れたのは、登山専門の旅行会社で実施した山の天気を学ぶツアーでした。このときは象潟口から登山を開始しました。既に森林限界を越えており、風が強く吹いています。少し登るとヨツバヒヨドリの花が迎えてくれて、ヒョウモンチョウが蜜を吸うためにヒラヒラと舞っていました。さらに登るとややくぼ地状の地形となり、雪渓となっています。雪渓を抜けると風が強まり、帽子などを吹き飛ばされないように声をかけながら、足元に増えていく花々に励まされて御浜小屋に到着しまし た。

写真1  ハクサンイチゲと鳥海山

日本海が手の届きそうな近さにあり、その中に浮かぶ小さな飛島が旅情をそそります。小屋の周囲には色々な高山植物の花が咲き乱れており、小屋の裏手にある尾根上に出ると、鳥海湖(鳥ノ海)が見下ろせます。夕食後、小屋の外に出ると、雄大な日本海の一角に黄金の柱が現れ、やがて雲の中に夕陽が没すると消えていきました。

写真2 太陽の光が反射して、日本海に光の柱が出きた

翌日は朝から曇り空で、事前に確認した予想天気図でも明らかに下り坂。山頂を目指すべきかどうかを考えます。小屋の外に出て空を見上げると、鳥海山の上に山岳波(さんがくは)に伴うレンズ雲が出ています。強風と悪天の兆候になる雲です。

写真3 鳥海山が作り出した悪天の前兆となる雲

外輪山コースは、強風帯のため諦め、千蛇谷(せんじゃだに)コースにしました。地形図で確認すると、強風帯は御浜小屋から七五三掛(しめかけ)までと、最高峰の新山(2,236メートル)の山頂付近のみです。ただし、雨が強まる場合には、雪渓上や沢沿いは落石や増水などのリスクが高まるため、このコースを安易に利用すべきでありません。今日の雨は行動中にはそれほど強まらないだろうと予想し、千蛇谷コースから新山の登頂を目指しました。

御浜小屋から七五三掛にかけては、ハクサンイチゲなど花々が咲き乱れ、山上の楽園といった趣きです。強風帯はいったんここまでですが、帰りも同じ場所を通るので、帰りのことを考えて先に進むかどうかの判断をします。

写真4 御浜小屋周辺の尾根上は強風帯。お花畑が見事

七五三掛から尾根を巻くように下っていくと大きな雪渓に出ます。予想通り、雪渓上の風は穏やかです。雨が降りだしましたが、さほど寒くは感じません。雪渓上を登り、やがて火口の中にある御室小屋に到着。ここは、標高が高いものの火口の中なので風は弱く、小屋の陰など風が避けられる所で休憩しました。ここで風が強いようなら新山の山頂や外輪山に登るべきではありません。

岩がちな斜面を登り新山の山頂に到着。帰路は、風が強まっていく中、往路を御浜小屋へ。そこからは行きに使用した象潟口と、吹浦口へ下るもうひとつの登山ルートがありましたが、小屋の人から「花がすごくきれいだよ。」と薦められたので、吹浦口に下ることにしました。しかし、尾根上は平均15m/sを越える強風が吹き荒れていて、耐風姿勢を取りながら前進しました。行程が短かったから良かったものの、長かったら低体温症になりかねない風雨です。「甘く見ていた」と反省。今回のツアーでは鳥海山に色々教えてもらいました。

鳥海山は笠雲や吊るし雲など、特徴的な雲が見られやすく、日本海の方角が開けているので、天候が急変するときの前兆を見つけやすい、まさに空を見るのに相応しい山です。また、ぜひ空見ハイキングを企画したいものです。