観天望気講座講座

観天望気171回

 先日(7月11日)、安藤百福センターの「ロングトレイルハイカー入門講座」に講師として行ってきました。前日の机上講座では山の天気の基本的な所から、遭難を避けるために必要な天気図の見方などをお話しさせていただき、最後に翌日、つまり登山当日の気象リスクを天気図から予想していただきました。

図1 7月10日9時を基準とした11日午前9時の地上予想図(気象庁提供のものを猪熊が作図)

上図は、そのときの天気図です。観天望気講座をおこなうのは、群馬・長野県境にある篭ノ登山です。梅雨前線が本州付近を東西に停滞しており、篭ノ登山はその北側にあります。梅雨前線の場合、前線の北側より南側に入る方が強風や大雨などのリスクが高まります。その意味では一安心ですし、この天気図からは分かりにくいですが、梅雨前線の活動は弱まることが予想されていましたので、午前中は青空が広がることを予想しました。

また、午後からの落雷や強雨のリスクがあるかどうかを調べるために、500hPa面(高度約5,800m)や850hPa面(高度約1,500m)の気温予想図を確認しました。

 落雷や強雨は、積乱雲(せきらんうん、別名雷雲)が発達したときに発生します。積乱雲は、雲がもっともやる気を出した(上方に成長した)状態で、雲がやる気を出すかどうかの指標は、500hhPaと850hPaの気温を比較することで、ある程度分かります。

“雲のやる気”の指標

  • 850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)
  • 850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い)
  • 850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

図2 11日15時の500hPa面(左)と850hPa面(右)の気温と風予想図

図2を確認すると、篭ノ登山付近(△印)では500hPaでマイナス6℃以下の寒気に覆われており、850hPaでは18℃前後の気温です。850hPaと500hPaの差は24℃以上ということになります。つまり、雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い)条件だということです。そこで、出発時間を早めることも考えましたが、食事などの関係からそれが難しかったので、予定通り9時頃の登山開始となりました。池ノ平湿原の駐車場から登り始めて1時間ほどで東篭ノ登山山頂へ。

この時点で写真1のように、西の空で雲がやる気を出し始めていました。雷雲は下層から上層にまで達する背の高い雲で、夏場は高度10km以上に達します。従って地上付近の風によって流されるのではなく、高度5~6km位の風に流されます。それは、ちょうど500hPa面の高さなので、図2を見てみましょう。この天気図には気温の他に、風向、風速が書かれています。矢羽の見方は図3をご参照ください。

図3 風向きと風の強さ

500hPa面の風を見ると、西風となっていることが分かります。そのため、雷雲は西から東へ流される可能性が高くなります。そこで西の空に着目しましょう。西の方で雲がやる気を出していくようなら、要注意です。やる気を出す雲というのは、写真1~3のように、ソフトクリームやカリフラワー状の入道雲が上方へどんどん成長していくことを言います。もちろん雷雲の寿命は短く、世代交代を繰り返しながら接近してくるので、その動きは500hPa面の風によってのみ決まるのではありませんので、その他の方角にも目を配ることは大切です。

 さて、篭ノ登山では、地形によって湿った空気の入り具合が異なることや、山の斜面に沿って上昇した空気が雲を作る様子などを解説しました。この日は、南風が吹いていて長野県側から群馬県側へと雲が流れていきました。山を越えた群馬県側では雲が弱まっていきますが、山を越えて吹き降ろした風が、下流側から昇ってくる谷風と衝突するところで新たな雲が生まれ、そこで雲がやる気を出していました(写真2)。

写真2 群馬県側でやる気を出した雲

この雲は、篭ノ登山の東側に離れているため、私たちに危険を及ぼす雲ではありません。水ノ登山へと稜線を歩き、山頂で昼食を取っている頃までは西側の雲はそれほどやる気を出していませんでした。水ノ登山から高峰温泉へと下り始めると、西側の空で雲がやる気を出し始めます。

写真3 西の空でやる気を出してきた雲

写真3をご覧いただくと、雷雲がいくつもの雲の集合体になっていることが分かります。入道雲や雷雲は、このように複数の雲から成り立っていることが多いです。そして、雲の底が真っ暗になってきました。こうなってくると、頑丈な建物や窪地など、少しでも危険が少ない場所に避難した方が良いでしょう。また、図4に書かれているような場所からは離れるようにしましょう。

図4 落雷の危険があるときに近づいてはいけない場所(山の天気にだまされるな「山と渓谷社」より)

さらに下っていくと、雲の底だけでなく、雲の中間付近にも真っ暗な部分が出現してきました(写真4)。

写真4 危険な雲

これは、かなり危険な兆候(サイン)です。すぐに避難を開始する必要があります。雷雲に追われるように高峰温泉に到着しました。この時点で、雷雲はかなり接近しており、雷レーダーを見ても落雷地点は西側から接近しています。危険だと判断し、高峰温泉で雨宿りすることにしました。通常、雷雲は30分から1時間程度で抜けていきます。

写真5 雷雨が去って、雨が可視化された降水雲(こうすいうん、写真の白い破線部分)が見える

このときは、雷雲が抜けるのが早く、30分程で去っていきました。しかし、大気が不安定な日は、この後、第2波が襲ってくる可能性があります。次の雲が発達するまでにと林道歩きを40分、無事に池ノ平駐車場へ到着。到着後、10分程で第2波がやってきましたが、今回は濡れることなく歩くことができ、また、どのような雲が危ないのか、どの方角に出てきたら危ないのかということを身をもって学んでいただけたのではないかと思います。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

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