空の百名山連載北陸・信越

第19回 中腹から山頂まで空見のパノラマロード 立山

山に登ることは空に近づくこと。

立山は、北アルプス北部に聳える富山県唯一の3千㍍峰です。富山平野や雨晴海岸から見る冬の立山連峰は、氷雪の鎧(よろい)をまとって白銀に輝き、人を拒絶するような、荘厳な美しさです。標高0メートルから3千㍍峰を見られる所は富士山を除けば少なく、平地から仰ぎ見る姿は、現代の私でも“神”の存在を信じたくなるほどです。それゆえに、日本三大霊山として、古くから信仰の対象となってきました。

また、富山湾や日本海から近い場所にあることから、冬の季節風の影響をまともに受け、世界屈指の豪雪の山としても知られています。室堂(2,450㍍)の冬季の最深積雪は7~8㍍に達し、東面には氷河も確認されています。ところで、立山というのは、薬師岳から剱岳までの立山連峰を指すこともあれば、立山三山(別山、立山、浄土山)を指すこともあり、大汝山(おおなんじやま)、雄山、富士ノ折立をひとつの山と見立てて立山と呼ぶこともあります。ここでの立山は、立山三山を指すことにします。

立山は、空を見るのにもふさわしい山です。豪雪や風雪の影響で森林限界が低く、中腹から山頂まで周囲の展望が開けていることや、天気の指標となる能登半島から富山湾、日本海にかけて遮るもののない眺望が期待できるからです。

立山の空見ポイント

●別山

 岩の要塞のように聳え立つ剱岳(2,999㍍)を正面に望む、大展望台です。雷鳥沢から登るにしても、立山や奥大日岳から縦走するにしても森林限界を超える場所を長く歩かなければならないため、落雷や低体温症などの気象リスクを考えて天候判断は慎重におこなう必要があります。

 空見をおこなうには、剱御前小舎(つるぎごぜんごや)に宿泊することをおすすめします。能登半島方面に沈む夕日、富山平野の夜景、後立山連峰からのご来光(剱御前方面に少し歩いた所がおすすめ)が期待できるからです。また、夏は、富山平野側から霧があがってくることが多く、剱沢や黒部峡谷側には雲が少なくなります。水蒸気は海や平野、川などから供給されてくるので、奥まった黒部峡谷方面には水蒸気が入っていきにくいからですが、そうしたことを雲が教えてくれます。

写真1 別山からの剱岳

●雄山

 学校登山がおこなわれるなど、富山県民にとって馴染みの深い山。眼下に黒部湖を挟んで後立山連峰と対峙(たいじ)し、南側に目を転じれば、槍ヶ岳や笠ヶ岳まで続く北アルプスの山並みが広がっています。夏には、南側で雲がやる気を出し(入道雲が発達し)、上空の風に流されて立山に雷雨をもたらすことがあります。

 また、立山では日本海から雲の列が接近してくるときに、天候が急変します。それを眺めるのにも適した山です。そのような雲が見られるとき、雄山で引き返すことで、気象リスクを避けることができます。つまり、雄山はその先、縦走を続けるかどうかの重要なターニングポイントになります。

写真2 雄山上空で「やる気」を出した積乱雲。雷雨の前兆となる危険な雲。

●室堂

 夏場は富山平野からの水蒸気が常願寺川に沿って平地から山へと運ばれていきます。水蒸気は、谷が大きい常願寺川と早月川と称名川に沿って下流から上流に向かって入るため、室堂~天狗平周辺だけ青空が広がることがあり、また南西から湿った空気が入るときは室堂山~国見岳で雲がせき止められて、室堂や立山のみ晴れることがあります。

写真3 周囲の山に雲が堰き止められて、室堂平は青空が広がることがある

そのような雲の振る舞いを眺めるのに適した場所です。ベンチに座ってみくりが池に映る雲を眺めたり、寝っ転がって高山ならではの深い青色の空に見入ったり、雲の流れを目で追ったり・・・・・・。たまには、歩き回らずにじっと、空を見上げて過ごす時間があってもいいかもしれません。