ヤマテンでは、登山者向けに、全国各地で「山頂で観天望気」を実施しています。山頂で雲や風の変化から天気を予想したり、雲や風の気持ちが分かるような、“空気”を読める登山者を育成する企画です。11月には第6回目の講座を第埼玉県の丸山(960m)でおこないました。今回は、そのときに見られた雲についての解説です。
図1 当日の地上天気図
まずは、この日の天気図を見てみましょう。千島列島付近に高気圧があり、日本の南海上に低気圧があります。このように、北の方に高気圧、南に低気圧という気圧配置のとき、関東地方では太平洋からの東風が吹く形になります。海の上は水蒸気が多く、海の上を風が吹くと、空気は水蒸気の補給を受けて湿っていきます。また、冷たい高気圧から吹き出す風が、この時期でも水温が高い関東沖に達すると、暖かい海水で温められた空気と上空との気温差が大きくなって対流が発生し、その上昇気流で層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が出来ます。この雲が東風に乗って関東平野に入ってくるため、関東地方では曇天となることが多くなります。
写真1 層積雲が広がる関東平野
さらに、この湿った太平洋からの風が関東平野を通り抜けて、奥武蔵や奥多摩東部の山にぶつかると山の斜面を上昇して、隙間が多かった層積雲が濃密な雲に変わっていきます(写真2)。
写真2 湿った空気が山の斜面で上昇して濃密な雲に変わっていく
山を越えると、空気は下降して温められるため、雲は次第に蒸発して弱まっていきます(写真3)。
写真3 山を越えて弱まっていく雲
一方、東風が弱まると、東側の雲は弱まる一方で、秩父側で日射により温められた空気が正丸峠に向かって上昇し、東からの風とぶつかる所で上昇気流が発生します(写真4)。
写真4
山で発生する雲は、このように地形の影響を強く受けるので、地図を見るとイメージが膨らみます。
図2 奥武蔵周辺の概念図
上図を見ると、東からの湿った空気が作り出す雲(写真2 図中の②)や雲が山を越えて蒸発する(写真3 図中の③)理由、風と風がぶつかり合って発生する雲(写真4 図①)ができる仕組みを理解できることでしょう。
写真5 北東方向で成長した入道雲
北東の方角には、雲の隙間から白くモクモクとした雲が見えます。これは雄大積雲(ゆうだいせきうん)で別名、入道雲と呼ばれる、夏に良く見られる雲です。地上付近が強く温められた空気が上昇してできる雲です。この雲の近く、熊谷市付近は内陸で日中、気温が上がりやすいことと、このときは雲の隙間に入り、日射があったため、温められたものと思われます。この温められた空気が上昇するとともに、東風による山の斜面での上昇気流も重なって成長した雲です(写真5 図中④)。
お昼を食べながら1時間程度、丸山の山頂で空を見渡すだけでも沢山の雲が見られました。雲が出来ている理由を知ることができると、嬉しいものです。ぜひ、皆さんもチャレンジしてみてください。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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