空の百名山連載中部山岳

第4回 燕岳夏編~台風接近前の黄金色の空の輝き~

山に登ることは空に近づくこと。

第二座目は燕岳(つばくろだけ)。人気の山小屋ラインキングで1位を獲得した、燕山荘(えんざんそう)があることで有名です。この山は、槍ヶ岳や裏銀座(うらぎんざ)方面の大展望台であるだけでなく、反対方向には浅間山、八ヶ岳、南アルプス、富士山の展望が広がり、眼下の安曇平上空には雲海が出現します。雲海の展望台としても優れた山です。燕岳の魅力は空だけではありません。稜線に出ると、南国の砂浜のように白い花崗岩の砂礫が広がり、そこに咲く可憐なコマクサの群落が登山者を癒してくれます。青い空と白い砂礫地、ピンク色のコマクサ、と想像するだけでウズウズしてきます。

この山にも忘れられない思い出があります。それは空見(そらみ)ハイキングツアー中の出来事です。

北アルプス三大急登のひとつ、よく整備されて登りやすい合戦尾根(かっせんおね)を登り、順調に燕山荘に到着。翌日は、台風の接近により天気が崩れていくことが予想されたので、燕岳往復をこの日におこなうことにしました。空は台風の接近を物語るように、おぼろ雲と呼ばれる灰色の雲や、ひつじ雲と呼ばれる羊の塊のような雲が広がっています。これらの雲が波打つように空に陰影を作っていました。

この雲は、波状雲(はじょううん)と呼ばれます。台風が南海上にあったことで発生したのです。池に石を落とすと水面に波紋が広がっていくのと同じで、遠く南海上にある台風が空気に波を起こし、台風から伝わる波が燕岳上空まで伝わってきたのでしょう。 燕岳の山頂で振り返ると、空が黄金色に輝いていて波状雲が放射状に延びています。雲が真っ赤に燃えています。見たこともないような、美しい夕焼けです。言葉も出ず、思わず立ち尽くしました。

燕岳上空に広がる稀に見る美しい夕焼け

実は、台風の前は色々な雲が見られることが多いのです。大気の状態が乱れているので変化に富んだ雲が見られやすく、上空高い所まで水蒸気が運ばれるため、夕焼けが美しく染まることが多いからです。台風の直撃を受ける日に登山することは無謀ですが、台風の前後は予想もしないような景色が見られることがあります。ただし、気象判断についてはヤマテンの情報などを利用して慎重に見極めましょう。

空の百名山 朝日新聞長野版、富山版、福井版にて連載中
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