空の百名山連載東北

第34回 天候急変 雲の動きダイナミック~真昼岳(秋田県)~

山に登ることは空に近づくこと。

真昼岳(まひるだけ)は、秋田県と岩手県の県境に位置する真昼山地のピークです。真昼山地の最高峰は二百名山の和賀岳(わがだけ)。その南西側に連なる山です。真昼という名前は、一説によると、坂上田村麻呂が東北地方を討伐する途中で、この地域の賊を退治するために山頂に立った時刻が真昼だったことから名づけられたそうです(諸説あります)。

真昼山地は、標高1,000m前後と里山レベルの高さですが、稜線は森林限界を超えている場所も多く、夏には多くの花が咲きます。また、笹原の雄大な草原と、点在する小さな岩壁、深く切れ込んだ沢は、とても標高1,000m級とは思えないスケールで、稜線を歩いていると、高山を縦走しているような錯覚に陥いるような山です。

 

写真1 草原が広がるスケールの大きな山容

 

尾根の上に立てば、見晴らしが良い所が多く、太平洋から北上川に沿って入ってくる水蒸気と、日本海からの湿った空気によって、天候の変化も目まぐるしく、雲の動きもダイナミックです。

低体温症などの気象遭難は、日本海側の山で多発していますが、それは、日本海側の山岳では急激に天気が悪化することが多いからです。日本海の方角にも空が開けている真昼岳は、日本海側で天候が急変するときに見られる雲を観察するのに適しており、私も講習会の会場として、この山をよく使います。

岩手県側と秋田県側の天気の違いについて学ぶことができるのも、この山の特徴です。基本的に、高気圧が通り過ぎていくと、太平洋側から湿った空気が入ってきます。つまり、岩手県側で雲に覆われていくことが多くなります。

 

写真2 岩手県側(写真左側)から侵入した雲が山を越えて秋田県側(写真右側)で消えていく様子

逆に、低気圧が通過した後、高気圧が接近してくるときは、日本海からの湿った空気が入ってきます。そのようなときは、秋田県側では雲に覆われて、岩手県側では晴れることが多くなります。山を挟んで天気の違いが見られるのも、真昼岳の面白さです。

 

写真3 日本海から接近する天候急変をもたらす雲

真昼山地は、秋田県有数の米どころ、仙北平野に接しています。仙北平野は盆地になっており、朝晩は冷えますが、昼間は熱せられやすいので、夏の日中は気温が上昇します。地面が熱せられると、その上の空気も暖められていき、暖まった空気は軽くなって上昇していきます。

上昇気流によって雲が発生し、上空に冷たい空気が入るなど大気が不安定になると、雲が“やる気”を出して入道雲(雄大積雲)、あるいは雷雲(積乱雲)に成長していくことがあります。そうした雲の“やる気”を眺めることができます。ただし、近くで“やる気”を出してきたら、すぐに安全な場所に避難しましょう。

 

〇おすすめコース

空見を楽しむのでしたら、峰越登山口からの往復がおすすめ。岩手県側と秋田県側両方の雲や景色を眺めながら、いくつかのピークを越えていくプチ縦走を楽しめます。新緑や紅葉の時期はブナ林が美しい赤倉登山口からの往復がおすすめです。あるいは、車を2台用意して、赤倉登山口から峰越登山口への縦走も良いでしょう。

 

写真4 ブナ林の美しい赤倉登山口からの登山

 

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