第1回「山頂で観天望気」を金剛山(奈良・大阪)で開催しました。そのときに見られた雲を解説します。朝起きて窓の外を見ると、大阪市上空はうね雲(別名層積雲)が広がっていました(写真1)。うね雲は、水蒸気を多く含んだ空気があるときに(主に海から風が吹いてくるとき)、地上付近や海上が温かく、上空1.5~2km位の低い場所に冷たい空気が入るときにできる雲です。
この日の天気図を見てましょう。
中国東北地方に低気圧があり、日本の東海上に高気圧があります。風は気圧が高い高気圧側から低気圧側に吹き、それが地球の自転の影響で右向きに変えられるので、矢印のような風向きになります。つまり紀伊半島付近では東寄りの風が吹くことが予想されます。等圧線の間隔はやや狭く、開けた場所や尾根上では東風が強まることが想定されました。今回行く金剛山のルートは山の西側から登るため、山頂に出るまでは、風下側に入るため風の影響をあまり受けないものの、尾根上を歩くときには樹林がない開けた場所で風が強まることを想定しました。
山では海側から風が吹くと、水蒸気を含んだ空気が上昇して雲がでるため、天気が崩れることをこれまでも学んできました。この日は天気図から東寄りの風が吹くことが想定されますので、熊野灘や伊勢湾方面から湿った空気がぶつかる鈴鹿山脈や高見山地、台高山脈で天気が悪くなる風向です。実際、これらの山岳では雨になりました。一方、金剛山では湿った空気がこれらの山やその西側にある大峰山脈で遮られるため、天気の崩れは小さくなりました。それを見越して登山を実施しました。
11月上旬ということもあり、登山口では紅葉はまだでしたが、山頂近くになると、色鮮やかなカエデの紅葉が目を楽しませてくれました。
写真4は、金剛山山頂付近の展望台から見た関空方面(南西)の空です。関空方面は青空が広がって陽が当たっているのが分かります。紀伊山地で雨を降らせた雲が山を越えて下降気流となり、雲は蒸発して消えていくからです。
一方、東側の空を見ると、暗い感じの雲が幾重にも広がっています。熊野灘からの湿った空気が上昇して雲が成長している様子が分かります。
図3のように、東風によって海側から湿った空気が入り、それが紀伊山地で上昇して雨を降らせ、山を越えると下降気流によって雲は消えていき、泉南地域では晴れている、という山を挟んだ両側の天気の違いが良く分かります。
さて、この日は東風が吹く気圧配置でした。日本付近では西から天気が崩れることが多いので、観天望気の基本は、西側の空を見ることなのですが、今回は東風が吹いているので風上側の東側から雲は流れてきます。東側から天気が変化していくので、このようなときは東の空を見ます。高い山の反対側(東側)にある雲は山を越えると弱まりますが、山の手前側(西側)にある雲は、金剛山にやってきます。 山頂でお昼を食べている間に、湿った空気が強まって山の低い場所を越えて雲が侵入してくるようになりました(写真6)。
そして、いよいよ東隣の山で雨が降り出してきたようです(写真7)。カーテンのレースのように雲の下が霞んでいるところは雨が降っている場所です。こうなってきたら雨具を取り出して出発しましょう。
風向を天気図から確認し、どちらの空をチェックしたらよいか調べておくと、空を見るときに役立ちます。また、風を感じられる尾根上にでたら、風向をチェックして風上側の空を見ましょう。今回のように、東風が吹くことが予想されるときは、金剛山など高い山の風下側の山を選ぶと天気の崩れが小さくなります。このときも、下山を開始してしばらくすると、雨はやんで再び青空が出てきました。湿った空気の入り込みが一時的だったようですね。
このときは、低気圧の本体がまだ西側に離れていたので回復しましたが、低気圧が接近してくるときは、雨は止むことなく次第に強まっていくので注意が必要です。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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