観天望気講座講座

猪熊隆之の観天望気194回 冬型が弱まるときの雲partⅠ ~山頂で観天望気 in 上蒜山(岡山・鳥取)~

2023年4月17日(月)に鳥取・岡山県境の上蒜山(1,202m)で見られた雲について、2回に分けて解説していきます。partⅠでは、天気図からその日の天気をある程度イメージしていく方法についてです。この日は、冬型の気圧配置が次第に弱まって、西から高気圧に覆われていく気圧配置でした。冬型が強いか弱いかは等圧線の間隔で見ていきます。等圧線の間隔が狭ければ狭いほど冬型は強まり、上蒜山など日本海側の山岳では風雨や風雪が強まります。逆に、等圧線の間隔が広がれば広がるほど、風は弱まって天気も回復していきます。そこで、登山前日に、登山当日の予想天気図を見て、等圧線が次第に込んでいくのか、それとも変わらないのか、広がっていくのかを確認しましょう。気象庁の予想天気図は、24時間ごとなので一日の変化を見ることができませんが、ヤマテンの「山の天気予報」では3時間ごとの予想図が見られるので、是非利用してみてください。

 

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それでは、早速、登山前日に確認した予想天気図を見ていきましょう。

 

図1 当日午前6時の地上気圧+降水予想図

図2 当日午後3時の地上気圧+降水予想図

図1を見ると、北海道の東海上に低気圧があり、その周辺で等圧線が込み合っています。また、九州の西の海上(東シナ海)では、周囲より気圧が高く、高気圧になっています。このように、日本列島から見て東側に低気圧、西側に高気圧という気圧配置を、冬型の気圧配置と呼びます。等圧線は日本列島で縦縞模様になりますが、このときは既に九州では線の間隔が広がってきて、冬型が西から弱まってきていることが分かります。

 

図1と図2を見比べますと、図2の方が等圧線の間隔が開いています。また、図1では蒜山のすぐ東側で等圧線が狭くなっています(赤い矢印)。このように、等圧線の間隔が狭い所の近くでは、まだ強風が残る可能性があります。

 

次に風向きを見ていきましょう。風があるとき、山では海側から風が吹くと天気が崩れる傾向にあるので、海側から風が吹くかどうかを見極めるためです。風は、気圧が高い方を右手に見て等圧線にほぼ平行に吹くので、等圧線の向きから判断しても良いのですが(図1の場合、西側が気圧が高いので、北から南へ風が吹く)、850hPa面(高度約1,500m)の気温・風予想図を使う方法もあります。

 

図3 850hPa面の気温+風予想図

図3を見ていただくと、線に羽根のようなものがついた記号が沢山あります。この羽根の出ている方向が風向きを表しています。見方については、図4を参照してください。

 

図4 風向きは羽根の出ている方向で判断する

図3を見ていただくと、蒜山付近では左上に羽根が出ていますので、左上からの風、つまり北西風になります。日本海からの風ということになりますので、蒜山では雲が発生しやすい風向きです。

 

雲が発生しても、雲がやる気を出さなければ、天気を大きく崩す雲にはなりません。逆に、雲がやる気を出して、ぐんぐんと成長していけば、落雷や強雨(雪)をもたらす、危険な雲になっていきます。雲は1.上層に寒気が入るとき 2.地面付近に温かく湿った空気が入るとき にやる気を出します。今回は、冬型の気圧配置が弱まっていくときなので、地面付近には冷たい空気が残っています。従って、2の可能性は低いので、1について見ていきます。上層の寒気は、高度約5,700m付近の500hPa面の気温で見ていきます。4月下旬から5月上旬頃は、マイナス24℃以下の寒気が入ると雲がやる気を出すことが多くなります。また、前回(193回 http://sora100.net/course/kantenbouki/2947 )で学んだように、850hPa面(高度約1,500m)との気温差で判断することもできます。

 

図5 当日午前6時の500hPa面の気温予想図

図6 当日午後3時の500hPa面の気温予想図

図5を見ていただくと、蒜山付近はマイナス24℃の寒気から脱しつつあることが分かりますが、まだマイナス21℃位の寒気が残っています。図6では、マイナス18℃以上の暖かい空気に覆われています。したがって、蒜山付近は次第に雲がやる気を失っていく空気の状態だということになります。こうした状況を頭に入れて、partⅡでは実際に雲を見ていきましょう。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

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