今回は、2月下旬に大阪府と奈良県にまたがる生駒山で見られた雲についてです。
写真1 生駒山から見られた雲
この日は写真1のように、帯状に連なる低い雲が現れていました。この雲は層積雲(そうせきうん)と呼び、細長い雲が規則的に連なる様子が畑の畝(うね)に似ているので、うね雲とも呼ばれています。写真2が典型的なうね雲です。
写真2 畑の畝のような形のうね雲
うね雲は、前回(191回) http://sora100.net/course/kantenbouki/2893 や前々回(190回)http://sora100.net/course/kantenbouki/2827 で学んだ通り、地面や海水面付近が暖かく、上空1,500m~2,000m付近に冷たい空気が入ったときにできる雲です(図1)。空気は温められると軽くなって上昇し、冷たくなると重くなるので下降しますが、それが交互に起きるので温かい空気が上昇するところで雲が発生し、冷たい空気が下降するところで雲は蒸発して消えていきます(図1)。そのため、雲ができるところと、雲がない部分が交互に発生するため、帯状の雲が列をなして連なるのです。
図1 うね雲ができるときの気象条件
この雲は、冬型の気圧配置になったとき、西日本で良く出現します。西日本の海は暖流が流れているので温かく、それに接している空気も温められます。一方、シベリアからは北西の季節風に乗って、この日は1,500m上空でマイナス9℃以下という冷たい空気が近畿地方の上空に入ってきました。そして、日本海や瀬戸内海から水蒸気の補給を受けた空気が流れ込むと、うね雲ができるのです。
写真3 雲に覆われているところと陽があたっている所が隣り合っている様子
うね雲に覆われると、雲が広がっている所と雲がない所が交互になっているので、陽が当たらずに暗くなっている場所と陽が射している場所が隣合っていることがあります。山の上から見ると、その様子が良く分かって面白いですね。「私の住んでいる所は曇っているけど、あなたの所は晴れてるね!」など、自分たちの住んでいる所の天気を想像して楽しんでみましょう。
一方で、190回で伊勢湾側に発生していた雲は積雲(せきうん)と呼ばれる雲です。積雲は別名、綿雲(わたぐも)とも呼ばれます。その名の通り、雲の形が綿に似ています(写真4)。
写真4 青空に浮かぶわた雲
図2 わた雲ができる仕組み
わた雲は、日射などで周囲より温められた空気が上昇することで発生します(図2)。わた雲とうね雲は浮かんでいる高さが同じ位で、形も比較的似ているので見分けづらいことがありますが、単独でプカプカ浮いているのに対し、うね雲は組織的に列を成していることが多く、単独に見える場合でも一つ一つの雲の塊が大きいのが特徴です。
この日は、他にも面白い雲が見られました。そのひとつが尾流雲(びりゅううん)と降水雲(こうすいうん)です。
写真5 尾流雲
尾流雲は、雲がシッポをはやしたように、雲底から下に垂れ下がっている雲です。この雲は、雲から落ちてくる雨や雪が地上に達する前に蒸発していったもので、それが目に見ている訳です。
写真6 降水雲
尾流雲が地上まで達すると、降水雲(こうすいうん)と呼びます。降水雲になると、雨や雪が地上に到達して、雨や雪が降っていることになります。通常、うね雲からは雨や雪は降りませんが、うね雲が厚くなると、雨や雪がちらつくことがあります。少し分かりづらいですが、写真6でも所々、地上まで達している所があり、ここでは雨や雪が降っている訳です。生駒山でもこの日、時折この雲が近づくと雪がちらつきました。
また、この雲のように一列に連なっている場合、風と風がぶつかり合って上昇気流が発生してできていることが多いです。ちょうど、この雲が発生しているあたりは淀川に沿って京都の方から吹いている風と、川西の方から吹いてくる北西風とが大阪平野で衝突していました(図3)。
図3 北東風と北西風が衝突する仕組み
うね雲がやる気を出すと、入道雲(にゅうどうぐも)や雷雲(かみなりぐも)になっていくことがあります。上空3,000m以上の高い場所で冷たい空気が入ると、雲がやる気を出していきますが、今回は3,000m以上では寒気が弱かったので、雲はやる気を出せませんでした。3,000m付近の寒気は700hPaの気温予想図で、5,500m付近は500hPaの気温予想図でチェックしましょう。冬は、700hPaでマイナス18℃以下、500hPaで-30℃以下の寒気が入ると、雲がやる気を出していきます。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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