空の百名山連載中部山岳

第29回 雲海広がる絶景テラスと高山植物咲く山上の湿原 ~入笠山(長野県)~

山に登ることは空に近づくこと。

首都圏からも近く、春夏秋冬賑わいを見せる入笠山(にゅうかさやま 1,955m )。南アルプスの北端に位置し、高層湿原の入笠湿原には、国産のスズランを始め、多くの季節の花々が咲き乱れ、花の山としても知られています。

写真1 スズラン咲く入笠湿原

 また、中腹にある富士見パノラマリゾートでは、9月下旬から11月上旬にかけて、金土日や祝日の早朝に雲海ゴンドラを運行しており、雲海発生確率の高い山としても知られています。ここの雲海の特徴は、眼下に見える雲が手に届きそうな近さにあることです。

 入笠山は、南アルプス最北の百名山、甲斐駒ヶ岳から鋸岳(のこぎりだけ)へ延びる尾根の延長線上にあり、谷を挟んで反対側には八ヶ岳連峰が聳え立っています。この2つの尾根の間には、諏訪湖から小淵沢方面に広がる谷(以下、諏訪の谷)があります。この谷が雲海の発生源になります。

雲海が発生するためには、①地面付近に水蒸気が沢山ある ②夜間から朝にかけて、晴れて風がない ③展望台より低い所に逆転層(空気の中にある蓋のようなもの)がある  ー の3つの条件が必要です。①の条件を満たすためには、前日に雨がしっかりと降って地面付近から水分が蒸発して空気中に水蒸気が溜まることが理想的です。諏訪の谷の北西側には、諏訪湖があり、谷の出口と入口が狭くなっていますので、前日に雨が降らなくても水蒸気が溜まりやすい地形です(図1)。

図1 諏訪の谷の地形

また、③は、②の気象条件のときにできやすいので、②の状態になるかどうかが、雲海が発生する際に重要になります。雲海ゴンドラを運行している富士見パノラマリゾートでは、ホームページ上で雲海予報も発表しているので確認してみると良いでしょう。

写真2 雲海テラスから見た、諏訪の谷に広がる雲海

 入笠山の空見(そらみ)ポイントは、雲海だけではありません。山頂からは、正面に鎮座する八ヶ岳連峰はもちろん、北アルプスから中央アルプス、南アルプス、奥秩父、富士山と日本を代表する山を一望できます。その展望から日本アルプスの空を観察するにはうってつけの場所です。

また、山と山の間には湖や谷が存在し、雲が谷を流れる様子から、谷が湿った空気の通り道であることを体感することができます。ゴンドラ山頂駅から1時間ちょっと歩くだけで、このような絶好の空見ポイントに到達できる気軽さも空見(そらみ)に適しています。冬は雪原のあちこちから、ソリを楽しむ子供たちの笑い声が響き、パウダースノーの感触を楽しみながら、スノーシューを履いて山頂を目指す登山者で賑わいます。まさに四季それぞれの魅力を味わえる山です。

〇おすすめコース

なんといってもゴンドラ山頂駅から、春から初秋にかけて花が咲き乱れる入笠湿原を通るコースが定番。山頂直下にあるマナスル山荘は、お食事に定評があり、ランチのビーフシチューは早めの予約が必須。 夜は満天の星を見ながら、星に詳しいご主人の解説を聞くのも忘れられない思い出になることでしょう。

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