山に登ることは空に近づくこと。
竜ヶ岳(1,099m)は、滋賀県・三重県境に連なる鈴鹿山脈の一座で、鈴鹿山脈で代表的な7座を選定した“鈴鹿セブンマウンテン”のひとつです。竜ヶ岳は、私の鈴鹿デビューの山です。この山を選んだ理由は、雨をもたらす竜神が宿るとされる山名の由来が天気に深く関わっていることと、山頂付近の広大な笹原の存在です。
私が行ったのは12月下旬でしたので積雪がまだ少なかったのですが、真っ白な雪原が広がる厳冬期や、笹原が緑になり、シロヤシオが咲く初夏の時期、そして秋の紅葉など、行きたい季節が沢山あります。年間を通じて山歩きが楽しめるのも竜ヶ岳の魅力です。
写真1 笹原が広がる竜ヶ岳の稜線
さて、竜ヶ岳は空を眺めるのにも良い条件が揃っています。ひとつは、鈴鹿山脈が伊勢湾と若狭湾、琵琶湖といった水蒸気の供給源に挟まれて色々な種類の雲が見られやすいこと。そして、もうひとつは、山を選んだ理由と重複しますが、空を広く見渡せる場所が多いことです。
山の天気は、海から風が吹くときに崩れやすくなります。それは海の上には水蒸気が沢山あり、その水蒸気が山に運ばれて山の斜面で上昇し、冷やされて雲になっていくからです。
図1 海からの風が吹くとき山で雲ができる仕組み
鈴鹿山脈の場合、天気が崩れるのは以下のときです。
- 伊勢湾から風が吹くとき(南東風)
- 若狭湾から琵琶湖を通って風が吹くとき(北西風)
いずれも海からの湿った空気が入りやすい風向きだからです。先日、私が竜ヶ岳に行ったときは北西から風が吹いていました。このため、若狭湾からの湿った空気が琵琶湖を通り、鈴鹿山脈にぶつかって上昇し、滋賀県側や山頂付近で雲を作りました(写真2)。
写真2 竜ヶ岳山頂遠足尾根上部から見た滋賀県側の空
一方、山を越えた空気は四日市や鈴鹿の市街地に吹き下ろしていき、空気は下降すると温められて蒸発するため、雲は消えていきます。したがって、三重県側は青空が広がっていました。上空の寒気が強いときは、鈴鹿の山を雪雲が越えて四日市など三重県側でも大雪になることがありますが、このときは寒気がそこまで強くなく、雲は幸い、“やる気”(雲が成長して、発達する様子を筆者は雲がやる気を出すと表現しています)を出せなかったようです。
写真3 三重県側の空。青空が広がる
陽光に照らされた伊勢湾が美しく、滋賀県側と三重県側の空の違いが面白かった日に登れたのはラッキーでした。このように鈴鹿山脈は山の両側での天候の違いを学ぶのにも適しています。
〇おすすめコース
空を眺めるなら金山尾根から登って遠足尾根を下るか、逆コースがおすすめ。金山尾根は急な斜面があるため、下りはぬれているときなど滑落の危険があります。急斜面の登り、下りに自信がない方は遠足尾根の往復が良いでしょう。時間と体力がある方は遠足尾根から表道登山道へ縦走して宇賀渓谷を歩き、滝めぐりすると充実した山行になることでしょう。